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敏洋’s 昭和の恋物語り

長編恋愛小説 〜水たまりの中の青空〜(十六)店を出たとき、 

2015年09月03日 外部ブログ記事
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店を出たとき、日付は変わっていた。
さすがに人通りは減っていた。
アーケード街を歩いたが、肩を触れずに歩くことの出来ないほどの混みようが、今はチラホラと歩いているだけだった。

路地の角に見え隠れする二つの影やら、所在なくタバコを吸う男。
シャッターの下りた店先で座り込んでいる男女。
先を歩く女性を追いかけている男。
脱力感に襲われている彼にとっては、羨ましい存在だった。

空腹感に襲われた彼は、角の銀行前に設置された屋台で、ラーメンを食することにした。
一杯では物足りないと思うのだが、二杯目を食べる勇気はなく、ゆで卵を二個平らげた。
「レストランでの食事が、これか…」
一人呟きながら、黙々と食べ続けた。

「お兄さん、お腹が空いてるの? 良かったら、麺だけでも少し上げようか? 
若いんだから、食べられるでしょ。
実はね、俺も小腹が空いてさ。といって、一人前食べる程でもないし」
と、半分程度の麺を彼の器に継ぎ足してくれた。
「良いんですか? 済みません、どうも」
彼は軽く頭を下げて、見も知らぬ中年男の好意に甘えた。

「忘年会の帰りなんだけどね。
お得意先に招待されたもんだから、殆ど料理に手を付けていないんだ。
自分の席に座ってなんか、居られなくてねえ。
もう、お酌ばっかりだよ。お陰で、酒はたらふく飲ませてもらったけれどね。
お兄さんも、忘年会かい? それとも、コンパとか何とか言うものかな?」

「いえっ、違うんです。やけ酒なんですよ。振られちゃいまして、それで」
「そうかい、そうかい。振られたかい。
そりゃあ、良いや。おっと、ごめんよ。
でもねえ、女に振られたことのない男は、だめだ。
女に振られてこそ、一人前だな。
なあ、大将!あ んたも、そう思うだろう」

「そうですねえ。今時の若い人たちは、何て言うんですか。
振られる前に、引いちゃいますからねえ。
ドーン! と、ぶつかる事をしませんねえ。
酒でもそうですよ、絶対に深酒なんてしません。
減りました。あゝやって、ゲロを吐く若い人は」
と、向かい側を指差した。

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