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敏洋’s 昭和の恋物語り

愛の横顔 〜100万本のバラ〜 (二十一) 

2023年12月20日 外部ブログ記事
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 八時の約束だったが、思いのほか電車の乗りつぎがスムーズにいき、15分ほど前に着いてしまった。“遊び人の男は、大体10分ほど前に着いている”。よくそんな話を耳にしている。ロビーの中央にある大きな観葉植物に目をうばわれながら、いくらなんでもこんなに早くは来ていないだろうと、ソファに腰をおろした。「栄子さん。おどろいた、こんなに早くおいでになるとは。電車の乗りつぎが、よほどにうまくいったようですね」。 相好をくずして、つややかな紺のポロシャツとジーパン姿の松下が近寄ってきた。
 ごった返す店の奥まった場所を確保した松下、キョロキョロと周囲を見回す栄子に「こんな場所は、栄子さんは初めてですか」と声を掛けた。「はい……」。嘘ではなかった。教室に通ってくる練習生から誘われることもありはしたが、「きょうはちょっと。ごめんなさいね」と断るうちに、だれも誘わなくなっていた。
 健二と入る店はファミレスが多かった。幼児たちの走り回る光景、声高にうわさ話に花を咲かせる主婦連。せめて静かな場所で思う栄子だった。眉をひそめる栄子に対し、「居酒屋のほうがよかったか? けどあんなごちゃごちゃした店なんか似合わない」と言う健二だった。しかしファミレスが似合うのかと、栄子自身が首をかしげてしまう。居酒屋は若者たちやら労働者たちの居場所であり、それに対してファミレスは、その名のとおりにファミリー向けのはずだ。
百歩ゆずってふたりが夫婦者ならばいいだろう。さらに言えば「恋人だとでもいうのかしら……」。しかし栄子にとっては、いま風にいえば「友だち以上、恋人未満」だ。ましてや、家族になろうとは思わない。栄子は栄子であり、独立独歩のおのれを確立していきたい。あくまで、フラメンコダンサーとして世界で活躍したいとねがっている。一流ホテルの展望レストランで都会の喧噪からのがれ、静かに流れるバロック音楽に浸りながらシャンパンで乾杯をする。そんなハイソサエティの世界に足を踏み入れたいと願う栄子にとって、居酒屋などという大衆酒場に足を踏み入れるなどありえない。ファミレスなどでぬるま湯的な世俗に浸りたくない、と断ずる栄子だった。
「ぼくはね、気取った店、レストランというのは嫌いです。こういった人間くさいところが好きなんです」 ホテルでの松下とはちがった面を見た気がした。セレブ特有の人を見下すところがなく、健二のような野卑たところも感じない。「ここはね、ぼくの仕事場みたいなものです。情報の宝庫なんです。サラリーマンの愚痴が聞ける、唯いつの場所です。キャバクラにもよく行くんですが、あそこではね、自慢話が聞ける。あそこも、ぼくの仕事場です」

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