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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第三部〜 (四百二) 

2023年12月19日 外部ブログ記事
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 長時間におよぶ手術がやっと終わった。昼の名残りののこる薄暮の時間から、漆黒の闇につつまれる午前二時過ぎに終わった。憔悴しきった三人の前で、手術中のランプが消え大きく息をつく音とともにドアが開いた。「プシューッ」 三人の頭が上がった。まだ朦朧としたあたまではあったが、小夜子がまっさきに「あなた、武蔵!」と、しがみついた。つづいて、五平と竹田が、また同じく「しゃちょー!」と声を合わせた。 竹田は思わず指を組んでいる。それを見とがめた小夜子が「祈りはだめって」とのことばを発し、また大粒の涙があふれでた。ガラガラと音を立てておされる中、引きずられるように「信じてたんだからしんじてたんだから」とお念仏のようにつぶやきつづけた。
 手術室まえで、五平と竹田が固唾をのむなか、静かに執刀医がせつめいをしはじめた。「難しい手術でした。犯人は、素人さんではないですな。あるていど訓練を受けた、プロというものが存在するかいなかは知りませんが、そういった類いですな。一度刺して、そしてもうちど押し込むような、しかもナイフ自体をかいてんさせながらです。これではたまりません。肝臓がねえ……」「そんなにひどい状態なんで(ですか)。で、なおりますか? 退院のめどってのは?」
 二人の声がかぶさったものの、今回は竹田がひかえた。「うーん。退院わあ……。命があっただけでも、もうけもんですからなあ。ま、すこし様子を見てからということにしましょう。とにかく、重体であることはまちがいありません。……最悪の場合ですが、このまま意識がもどらないってことも…あるかもしれません」
 それではと、疲れたからだをあらわすように、両肩を上げ下げしながらはなれた。「うーん。こりゃあ……」。五平がうなると、竹田も腕を組みながら「どうしよう、お姫さまにはなんとご報告したら」と思案顔をした。「そうか、そうだな。医者にも口止めしておかなきゃ。こんなことが、いま、外部に漏れたらえらいことだ。いいか、竹田。俺たちだけの秘密だぞ。会社のものには軽いものですぐにも退院できると伝えろ。ただ、できるけれども、長年のつかれをいやすためにもしばらく静養される、ということにするんだ」 竹田に言明したあと、口をつぐんで考え込む五平だった。
 悲しくなる竹田だった。やむを得ぬことかもしれぬが、と己の立場というものを考えないわけにはいかなかった。会社のことを思えば、たしかに不祥事であり大ごとにしてはならない。百貨店内でのことだ、朝刊には面白おかしく書かれることだろう。電話がなりひびくだろう様子が、竹田の目の前にはっきりと思い浮かべられた。

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