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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第三部〜 (四百) 

2023年12月05日 外部ブログ記事
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 それまでごった返していたのに、突然に男と武蔵のあいだに2ートルほどの直線ルートができた。そのときはじめて、男が武蔵と視線をあわせた。危険を感じた武蔵だったが、この至近距離ではいかんとしがたく、なされるままだった。なんのことばもなく、「ドン!」とぶつかり合い、男は去っていった。武蔵と男がぶつかった、ただそれだけのようにみえたが、武蔵の腹に、大型のサバイバルナイフが突き刺さっていた。挨拶をしているようにみえました、争うようすはありませんでしたという証言がほとんどだった。
 中年男がはなれたとき、武蔵がその場に崩れおちたが、なんのことばもなかった。静かにひざが折れて前のめりになり、両手で傷口をおさえていた。「男のお子さまでいらっしゃいますし、これからいろいろとご活発に、、、」。売り場主任が大量の玩具類を台車にのせてはこんできて、フロアに倒れ込んでいる武蔵を見つけた。「みたらいさま、みたらいさま」。大声で叫びながら駈けよってきた。
 ひざをついて崩れおちた武蔵の異変に気づいた者はいなかった。ただひざをついているだけのことに見えた、とその場にいた全員が証言した。しかし店員が大騒ぎするのをみて、さも心配げにのぞき込みはじめた。「救急車、きゅうきゅうしゃ!」。その声がフロアにひびくと、ようやく事の重大さに気がついた。
 ナイフが突き刺さったままだったことで出血量が少ないことが幸いした。時間が夕方まえで車の渋滞が起きていなかったことも、そして救急隊員の駆けつけが早かったことも、武蔵を助けた。急を聞いた五平らが駆けつけたとき、すでに手術室のとびらは閉じられていた。竹田から要領のえない連絡をうけた小夜子も、取るものも取りあえず駆けつけた。祈るような仕草をみせているふたりに発せられた小夜子のことばは、意外なものだった。「ふたりとも! そんな手をあわせることはしないで。お祈りなんてやめて! 武蔵は大丈夫、きっと戻ってくるから。『心配かけたな』って、手をふって部屋からでてくるんだから」
 目をつりあげて鬼のような形相をみせながら叫ぶように言った。「あたしと約束してるの。『アメリカにつれていってやる。アーシアのお墓参りをふたりでするぞ』って、約束してくれたんだから。武蔵は約束はまもるのよ。きっと、守るの。どんなに苦しいときでもどんなに辛いときでも、かならずあたしには笑顔をみせるんだら。『ただいま!』って、かえってくるんだから」 大粒のなみだを流しながら、己に言い聞かせるように、最後は五平らふたりには聞きとれない小声になってしまった。

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