読書日記

『浮遊霊ブラジル』 読書日記297 

2023年11月29日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書日記


津村紀久子『浮遊霊ブラジル』文藝春秋(図書館)

amazonの内容紹介はたった2行。
ただ生きてきた時間の中に溶けていくのは、なんて心地よいことなんだろう。卓抜なユーモアと鋭い人間観察、リズミカルな文章と意表を突く展開。会心の短篇集!

というものであるが、読んで見るといつものお仕事小説ではなく、発想が独特でいわば不条理世界の話。

【収録作】
「給水塔と亀」…定年を迎え製麺所と海のある故郷に帰った男。静謐で新しい人生が始まる。(『文學界』2012年3月号)〈2013年川端康成文学賞受賞作〉
「うどん屋のジェンダー、またはコルネさん」…静けさのないうどん屋での、とある光景。(『文學界』2010年2月号)
「アイトール・ベラスコの新しい妻」…ウルグアイ人サッカー選手の再婚の思わぬ波紋。(『新潮』2013年1月号)
「地獄」…「物語消費しすぎ地獄」に落ちた女性小説家を待つ、世にも恐ろしい試練とは。(『文學界』2014年2月号)
「運命」…どんなに落ち込んでいても外国でも、必ず道を尋ねられてしまうのはなぜ?(『新潮』2014年6月号)
「個性」…もの静かな友人が突然、ドクロ侍のパーカーやトラ柄で夏期講習に現われて…(『すばる』2014年9月号)
「浮遊霊ブラジル」…海外旅行を前に急逝した私。幽霊となって念願の地をめざすが、なぜかブラジルに到着し……(『文學界』2016年6月号)

ただ、不条理世界と言っても不条理なのは「生きている間に情報を消費しすぎた女性が落ちた地獄」とか、「急に死んだ私が浮遊霊となった」とか「人から頼まれた調べ物が学校時代のカーストに繋がる」とか言うシチュエーションであり、ほとんどの場合、普通であれば目に入らなかったり、目に止まっても気にしないような対象を客観的に見て語る、語り手の内心が一人称で語られていく。ともあれ、「?」から始まるが、読み終えると納得させられているという離れ業を味わえた。
(2023年11月7日読了)



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