読書日記

『赤と青のガウン』 読書日記375 

2024年05月23日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書日記


彬子女王『赤と青のガウン』PHP文庫

2015年に出版され2024年4月に文庫化された本である。なぜか巷で評判であるらしい、ということで書店に言ったら書棚にあったので購入して読んだ本である。著者の彬子(アキコ)女王は三笠宮家に属する。三笠宮家は昭和天皇の末弟であった三笠宮崇仁親王が設立したもので彬子女王はその孫であり、今上天皇の再従妹にあたる。

皇室関係者が英国に留学し、その経緯を本にするのは(私の知る限り)今上天皇がオクスフォード大への留学記『テムズとともに』(1993年出版、学習院教養新書←2023年に新版発売)に続いての2冊目である。今上天皇の英国留学は知っていたが、彬子女王も同じ道を辿りさらに博士号(D.phil.)を取得していたことは知らなかった。

内容紹介では
ドアを閉めた瞬間に涙がこぼれた。思えば、あれが留学生活最初で最後の「帰りたい」と思った瞬間だった。
本書は2004年から5年間、英国のオックスフォード大学に留学し、女性皇族として初めて海外で博士号を取得して帰国された彬子女王殿下の留学記。女王殿下は2012年に薨去された「ヒゲの殿下」ェ仁親王の第一女子、大正天皇曾孫。
初めて側衛(そくえい)なしで街を歩いたときの感想、大学のオリエンテーリングで飛び交う英語がまったく聴き取れず部屋に逃げ帰った話、指導教授になってくれたコレッジ学長先生の猛烈なしごきに耐える毎日、そして親しくなった学友たちとの心温まる交流や、調査旅行で列車を乗り間違えた話などなど、「涙と笑い」の学究生活を正直につづられた珠玉の25編。
最後は、これが私の留学生活を温かく見守ってくださったすべての方たちへの、私の心からの「最終報告書」である、と締めくくられる。

題名の「赤と青のガウン」とはオクスフォードで博士号を取得したものだけが着ることのできるガウンであり、著者自身も本書の冒頭部で以下の様に記す。

オクスフォードでは学位によって着るガウンの色が違う。オックスフォード大学における学位授与式とは、いわば古いガウンから新しいガウンに衣替えをする儀式とも言える。大学院生が着る黒一色のガウンを脱ぎD.phil.の赤地に青のガウンを着せかけられたとき、さまざまな思いが頭を巡った。

それとともに、あとがきでもこの赤と青のガウンに触れているのであるが、著者のこのガウンに込める思いの深さが判る。楽しかったことは覚えているが、悲しかったこと辛かったことについてはその「感情」は思い出すが具体的な内容は忘れているとあとがきで触れられてもいるが、その学位取得までの道のりの厳しさは(上の記述にもかかわらず)良く判る。そうしたことも含めての学位取得はなんと言っても著者の資質と指導教官であるジェシカ(敬称略)から「アキコは、私が出した課題をすべて時間通りに提出することのできた唯一の学生なのよ」と言われたことに示される様に努力の賜である。なお、オックスフォードでの博士号取得は世界的な研究者への仲間入りを示すものであり、学問的には大きな意味があることを念の為に付け加えて置く。

皇族、といっても著者曰く「私レベル(女王陛下の従兄弟のこども)にはえいこくでは護衛はつかない」ということで、日常生活は料理などもすべて一人でこなし、ひとり旅は存分にしたという著者である。たまに、プリンセスであることを明かさねばならない場面があるとそれはとってもユーモラスである。

徳仁親王の英国留学記でもそうであったが、日本での日常生活を離れて暮らすことはやはり大きな経験となっていくものであろう。
(2024年4月28日読了)



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