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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (三百九十五) 

2023年10月31日 外部ブログ記事
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「大丈夫ですよ、その点は。特例中のとくれいだってことを伝えてありますから。新入りの藤本なんか、ぼくが何度いっても門前払いの吉田工業との取引を成立させたんですよ」と、しかしそれでもなお食い下がる服部に対して、「それでもだ。節操がない会社とおもわれる」と、取り合わない。
「1回目は通常取引で、2回目からおまけ作戦をとりました。みんな営業に苦労している所ばかりなんです。特例として許してやってください」 すがるような視線を、営業全員がいや富士商会社員全員が、武蔵に向けた。「しかしなあ……。まあ、お前たちの判断にまかせるといったのは事実か。しかし服部、事後承認でいいと言ったんだぞ」「はい、分かっています。でも『ダメだ』って言われそうだったんで、セール終了後にしようと思いました。すみません。責任はぼくがとります。給料を減らしてください」
 ニコニコと聞いていた五平が武蔵に言った。「社長の負けだ、こりゃ。服部の方が一枚上手ですなあ。はじめてじゃないですか、社員にやりこめられるのは」 苦笑いをする武蔵だったが、横を向いて「竹田。お前の策だろ? 服部はこんな策は思いつかん。正面切って、俺に取引させてくれというはずだ。そういう直球勝負でいくところが、服部のはっとりたるゆえんだ。だからお得意先に好かれるんだ、大事にしろよ、お前の売りだからな。分かった、わかった。今回は不問だ。それより、あと1ヶ月だ。予定通り、それでセールは終了だ。日の本商会の奴、音を上げたらしい」と、先ほどの仏頂面とは裏腹に、勝利に酔いしれている。
「仕入れ先からのクレームに耐えかねんのだと。『二流三流品に見えるからやめてくれ』だと。ぶつが入ってこなけりゃ、そりゃ商売ができないわな」 そのことばに、五平が付けたした。「社長だって手をこまねいていたわけじゃないぞ。こうやって、裏工作をなさっていたんだよ。ましかし、みんなよく頑張ってくれたな。営業のみじゃなくて、事務方もだ。いやがらせの電話が、けっこう入っていたというじゃないか」 あまりの長さに、徳子が2階へと上がろうとしたとき、五平の労いのことばを耳にした。
「それから長尾。お前ら配達人も、よくがんばった。売り上げが伸びるということは、それだけ荷物量がふえたということだ。それをこのギリギリの人数で、よく頑張ってくれた。朝はやくから夜おそくまで、ほんとうにごくろうさん。お前たちは縁の下の力持ちだ。だれもほめてくれる部署じゃないが、みんな知ってるぞ」 五平のことばが終わると同時に、全員から拍手がおくられた。
 そっと部屋から出る武蔵が、部屋の外で聞き耳を立てていた徳子に気がついた。「どうした、徳子。電話番じゃなかったのか?」 少し詰るような強い言葉だったが、そのことには気にもとめずに、徳子が全員を押し戻した。「浮かれるのも今だけよ! セール期間中は、とんでもないことなんだからね。いいこと! 富士商会も、大赤字なの。分かってるでしょうね、みんな。おまけをつけるということは、半値で売ったのと同じなんだからね。日の本商事が死に体になったとしても、富士商会も、深〜い傷を負ったんだからね」  沸きにわいた瞬間だったが、徳子のことばに冷水を浴びせかけられたも同然だった。「そうだな、そのとおりだな。徳子の言うとおりだ。けどな、きょう一日だけは、勝利に酔いしれようじゃないか。さっ、そうとなれば仕事だ、しごとだ。待ってるぞ、お客さんが」 五平の締めことばでお開きとなった。徳子のことばに深海に落ち込んだ全員が、五平のことばでふたたび生き返った。

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