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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (三百九十三) 

2023年10月17日 外部ブログ記事
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 翌日のこと、社員すべてを集めての朝礼がはじまった。電話番としてひとり、徳子が事務室にのこった。いまではお局さま然として、女子社員を取り仕切ってる。かつては武蔵の愛人として君臨していたものだが、小夜子という姫が現れてからは、いやその小夜子自身に惚れ込んでしまい、女城主の警護係になっている。?  二階にある大食堂でのこと。武蔵の激しくもどこか誇らしげな声がひびいた。「セールを始めてから2ヶ月だ。どうだ、成果は上がったか? 服部、営業の成績を発表しろ」 ぐいと胸をそらせて、服部が黒板中央に立った。そこには折れ線グラフで、月ごとの成果表が示されている。
「ええ。セールそのものは、8月の頭からスタートしました。1、2月は社長の新年の訓示もあり、不景気な世間とはちがい前年度なみでした。ところが、3月に入り、漸減傾向となり、5月6月の落ちこみがはげしくなりました。これが、例の日の本商会事件です。で、6月に山田の報告により分かりました。社長の指示の元、おまけ作戦を敢行したところ、このグラフの通りにうなぎ登りにあがっています。9月の今月は、過去最高の売り上げを予定しています」
 割れんばかりの拍手の中、服部が満面に笑みを浮かべ拳を突き上げて、やったぞと誇示した。「ええ、もうひとつ報告があります。取引先の数も300社を超えて、過去最高であります。新規顧客へのおまけ作戦を敢行したことが寄与したと思われます」 鼻高々に話す服部に対して、武蔵から苦言がでた。「こらっ、服部。それはだめだと言ったろうが」。 しかし服部も負けてはいない。
「新規とはいっても、いい客筋ばかりです。なかなか取引させてもらえない所ばかりなんです」「新規の客にはじめからこんなサービスをすると、富士商会は御ししやすいとなるんだぞ。またぞろ無理難題をいってくるぞ」 武蔵が苦言を呈した。
 武蔵に苦い経験があるのだ。日本橋に会社を移して数年後のことだった。あるメーカーとの取引でもめたことがある。競合してしまった相手に対し、「これははじめての取引ですので、原価で売り込ませてもらいます。ただし1回だけの値段で、その旨は相手にもつたえてあります。以後はこんな無茶はしませんので、今回かぎりは」と義理を果たした上で、大杉商店主の人の好さにつけ込み納得させた。
「旦那さまのおっしゃるとおりではございますが、『小さなのありの一穴からダムが崩壊することもある』という故事もございます」。番頭も忠言したが聞きいれられなかった。とくに信用金庫に勤める長女の娘むこは、前々から人の好さを危惧していたこともあり、「お考え直しください」と進言したがむだだった。「あなたは金勘定ばかりしているから、人情というものがうすい。商売というものがわかっていない。なあに、しょせんは一介の課長決裁じゃないか。いざとなれば、社長に直談判しますよ」 歯牙にすらかけられなかった。これまでの人情味あふれる己の評判を落としたくないという一点で突っ走る店主だった。
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*ご報告
一部整合性のとれない箇所が、またしても見つかりました。修正しつつ加筆しました作品を、以前にもお伝えした、「やせっぽちの愛」にてアップ中です。(一)から(百二十)までを終えました。お時間がありましたら、ぜひにもお立ち寄りください。
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