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敏洋’s 昭和の恋物語り

青春群像 ご め ん ね…… 祭り (十五) 

2023年10月01日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 小屋のうら手に煌こうと電燈がともり、プンプンと酒のにほいがする別の小屋があった。十畳いやもう少し広いだろうか、板べいの小屋だった。 ちいさな窓から中をのぞきこむと、七、八人が車座になってすわっている。そして並々と注がれたコップ酒を、次つぎにからにしていた。
その中には、呼びこみの男がいた。短剣をなげて喝采を浴びた中国人風の男もいた。お手伝いをしていたチャイナ服がまぶしかった女性もいた。割りばしをチリ紙で叩きわった武士道の先生もいた。
 みな、顔を赤くしている。そしてそのなかにひと際大きな嬌声をはっしている、あのへび女がいた。舞台の上で着ていた真っ白な着物すがたで、やはりコップ酒を飲んでいた。おおきく胸元をはだけている。身ぶり手ぶり大きく、話している。白くもり上がった乳房が目にはいったとき、ふたりとも思わず目を伏せた。
「どういうことだ、どういうことなんだ!」「へび女だよね、まちがいないよね。いっしょに居るよね、おさけを飲んでるよね」 そして改めてのぞいたとき、いままさに、かれらに封筒が手渡されているところだった。その中身がなんであるかはふたりにもよく分かった。
そしてなにより、友人はもちろんぼくにも衝撃だったのは、皆がみな、あのへびを食べていたことであった。その瞬間、ぼくの胸の熱いものがスッと消え、目がしらに熱いものがこみあげてきた。横の友人をぬすみ見すると、ただ黙りこくっていた。ギラギラとした光が、目から消えたように感じられた。
 お互いなんのことばもなく、急に重くなった背中のリュックー炭酸飲料に菓子パンにインスタントラーメン、そしてせんべいの入ったリュックをおたがい見つめ合い、どちらからともなく笑った。そして友人の目になみだが光り、ぼくのそれは頬をつたっていた。幾重にもかさなったその夜の月は、いまでも脳裏に浮かんでくる。

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