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読書日記
『陽眠る』 読書日記263
2023年09月22日
テーマ:読書日記
上田秀人『陽眠る』角川時代小説文庫
2020年に出版され、2023年8月に文庫化されたもの。著者には珍しく、幕末期の話である。
内容紹介は以下の通り。
大政奉還の後、鳥羽伏見の戦いには敗れたものの、十五代将軍・徳川慶喜は薩長に対し徹底抗戦を主張。幕軍は意気軒昂であった。
幕府がオランダに依頼して建造された〈開陽丸〉の艦将・榎本釜次郎武揚も、「ここからが海軍の出番」と自負していた。しかし、家臣たちの前で徹底抗戦を宣言したその夜、慶喜は大坂に停泊していた旗艦開陽丸で江戸へ逃げてしまう。
失望した榎本武揚は、海軍時代から榎本の右腕だった副艦将・澤太郎左衛門と、大坂城から持ち出した十八万両を持って、開陽丸ごと徳川海軍を脱走。蝦夷地を開拓し旧徳川家家臣の新天地とすべく北へと向かう。無念の開陽丸と男たちの軌跡を描ききる、渾身の歴史小説。
主人公がやや不明で榎本武揚かと思えば、澤太郎左衛門かとも思える。が、実は題名から考えると開陽丸を主体に書きたかったのではないかと推測される。866年にオランダで建造された幕府軍艦「開陽丸」。オランダ名フォールリヒテル、排水量2,590t、全長72.8m、26門の大砲を備える当時東洋最強の軍艦。その開陽丸の慶喜の大阪城離脱から江差沖での座礁沈没までの軌跡、ただし、その間にほとんど戦闘らしいことを出来ず、ただ、移動しただけともいえる事績を書きたかったのではないだろうか。後の戦艦大和と似た様な運命である。
こうして見ると戊辰戦争を含め明治維新(薩長側として)は望外にうまく推移したのかもしれない。歴史にifは無いのであるが、日本が近代国家として成立、成長する為にはいくつもの隘路をすり抜ける必要があったと感じる。
ただ、渾身の歴史小説というには充分では無く著者の作品としてはいまいちであった。
(2023年9月3日読了)
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