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読書日記
『百年と一日』 <旧>読書日記1486
2023年09月21日
テーマ:<旧>読書日記
柴崎友香『百年と一日』筑摩書房(図書館)
昨年の8月から9月にかけて著者のこの本が多くのマスコミによって紹介されたようだ。「人間と時間の不思議がここにある。この星にあった、だれも知らない、だれかの物語33篇。作家生活20周年の新境地物語集。人生と時間を描く新感覚物語集。」という惹句で紹介された中の書評によって私もこの本に興味を持ったのだと思う。
読み終わるのが今頃になったのは、図書館で予約待ちが多かったから・・
なんとも不思議な味の短篇集であった。目次を読むとその話の1つ1つの概要が分かってしまうのであるが、そして、その1篇毎の長さが長くても8ページほどという短篇ばかり33篇。一つ一つに繋がりは無く、小さな一場面を切り取ったスケッチばかりである。とは言え、その短い文の中に数十年が流れたりする。
本篇は全部で180ページ余り。ある程度、中心になるのは時の流れとうつろい。似たテイストの短篇を繰り返し、重ね塗りをしていくことで出てくる味わい。ストーリー性を求める人には向かないかも知れない。
私にとって著者のものを読むことは初めてであり、他の作品との相違はわからない。ただ「作家生活20周年の新境地物語集」ということでもあるので、以前の作品とは多少なりとも異なっているのだろう。
巻末に
本書は『ちくま』2017年11月号〜2019年9月号に隔月掲載された連載『はじめに聞いた話』のタイトルを変えて加筆・修正し、各話のタイトルに改題を加えたものである、という注釈があった。煩雑だが目次を写すと判るかも知れない。
【目次】(・のついている短文が目次の文である)
・一年一組一番と二組一番は、長雨の夏に渡り廊下のそばの植え込みできのこを発見し、卒業して二年後に再会したあと、十年経って、二十年経って、まだ会えていない話
・角のたばこ屋は藤に覆われていて毎年見事な花が咲いたが、よく見るとそれは二本の藤が絡まり合っていて、一つはある日家の前に置かれていたということを、今は誰も知らない
・逃げて入り江にたどり着いた男は少年と老人に助けられ、戦争が終わってからもその集落に住み続けたが、ほとんど少年としか話さなかった
・〈娘の話 1〉
・駅のコンコースに噴水があったころ、男は一日中そこにいて、パーカと呼ばれていて、知らない女にいきなり怒られた
・大根の穫れない町で暮らす大根が好きなわたしは大根の栽培を試み、近所の人たちに大根料理をふるまうようになって、大根の物語を考えた
・たまたま降りた駅で引っ越し先を決め、商店街の酒屋で働き、配達先の女と知り合い、女がいなくなって引っ越し、別の町に住み着いた男の話
・小さな駅の近くの小さな家の前で、学校をさぼった中学生が三人、駅のほうを眺めていて、十年が経った
・〈ファミリーツリー 1〉
・ラーメン屋「未来軒」は、長い間そこにあって、その間に周囲の店がなくなったり、マンションが建ったりして、人が去り、人がやってきた
・戦争が始まった報せをラジオで知った女のところに、親戚の女と子どもが避難してきていっしょに暮らし、戦争が終わって街へ帰っていき、内戦が始まった
・埠頭からいくつも行き交っていた大型フェリーはすべて廃止になり、ターミナルは放置されて長い時間が経ったが、一人の裕福な投資家がリゾートホテルを建て、たくさんの人たちが宇宙へ行く新型航空機を眺めた
・銭湯を営む家の男たちは皆「正」という漢字が名前につけられていてそれを誰がいつ決めたのか誰も知らなかった
・〈娘の話 2〉
・二人は毎月名画座に通い、映画館に行く前には必ず近くのラーメン屋でラーメンと餃子とチャーハンを食べ、あるとき映画の中に一人とそっくりな人物が映っているのを観た
・二階の窓から土手が眺められた川は台風の影響で増水して決壊しそうになったが、その家ができたころにはあたりには田畑しかなく、もっと昔には人間も来なかった
・「セカンドハンド」というストレートな名前の中古品店で、アビーは日本語の漫画と小説を見つけ、日本語が読める同級生に見せたら小説の最後のページにあるメモ書きはラブレターだと言われた
・アパート一階の住人は暮らし始めて二年経って毎日同じ時間に路地を通る猫に気がつき、行く先を追ってみると、猫が入っていった空き家は、住人が引っ越して来た頃にはまだ空き家ではなかった
・〈ファミリーツリー 2〉
・水島は交通事故に遭い、しばらく入院していたが後遺症もなく、事故の記憶も薄れかけてきた七年後に出張先の東京で、事故を起こした車を運転していた横田を見かけた
・商店街のメニュー図解を並べた古びた喫茶店は、店主が学生時代に通ったジャズ喫茶を理想として開店し、三十年近く営業して閉店した
・兄弟は仲がいいと言われて育ち、兄は勉強をするために街を出て、弟はギターを弾き始めて有名になり、兄は居酒屋のテレビで弟を見た
・屋上にある部屋を探して住んだ山本は、また別の屋上やバルコニーの広い部屋に移り住み、また別の部屋に移り、女がいたこともあったし、隣人と話したこともあった
・〈娘の話 3〉
・国際空港には出発を待つ女学生たちがいて、子供を連れた夫婦がいて、父親に見送られる娘がいて、国際空港になる前にもそこから飛行機で飛び立った男がいた
・バスに乗って砂漠に行った姉は携帯が通じたので砂漠の写真を妹に送り、妹は以前訪れた砂漠のことを考えた
・雪が積もらない町にある日大雪が降り続き、家を抜け出した子供は公園で黒い犬を見かけ、その直後に同級生から名前を呼ばれた
・地下街にはたいてい噴水が数多くあり、その地下の噴水広場は待ち合わせ場所で、何十年前も、数年後も、誰かが誰かを待っていた
・〈ファミリーツリー 3〉
・近藤はテレビばかり見ていて、テレビで宇宙飛行士を見て宇宙飛行士になることにして、月へ行った
・初めて列車が走ったとき、祖母の祖父は羊を飼っていて、彼の妻は毛糸を紡いでいて、ある日からようやく話をするようになった
・雑居ビルの一階には小さな店がいくつも入っていて、いちばん奥でカフェを始めた女は占い師に輝かしい未来を予言された
・解体する建物の奥に何十年も手つかずのままの部屋があり、そこに残されていた誰かの原稿を売りに行ったが金にはならなかった
(目次終わり)
(2021年3月26日読了)
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