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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (三百八十六) 

2023年08月30日 外部ブログ記事
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 赤子の誕生は、小夜子を大きく変貌させるに十分なことだった。母親の愛情に飢えていた小夜子を不憫だとおもう茂作は、小夜子のわがままにつきあうことでしか愛情を注ぐことができなかった。「母親のぬくもりをしらぬ小夜子は、ほんにふびんな子じゃ」と、周囲にたいしてお念仏のようにいいつづけていた。そしてそれは周囲のだれもがおもうこととなり、最大公約数となってしまった。ふびんな子というお題目でもってわがままをおしとおす小夜子を、だれひとりとして叱り付けることはなかった。生まれもった美貌とあいまって、それが許されてしまったのは、小夜子にとって不幸なことだった。
 アナスターシア、そして勝子。そのふたりの死が小夜子にあたえた衝撃は大きかった。武蔵という存在がなかったら、小夜子自身の崩壊ということもありえたかもしれない。しかし小夜子の満ちたりぬおもいは、武蔵をもってしても埋めつくすことはできなかった。小夜子の物欲を満たすことはできても、奥底にかかえるこころの渇きはいえることがなかった。
「はいはい、おっぱいね。はいはい、たーくさん召し上がれ。たくさんたくさん飲んで、早く大きくなってね」「どうしてひとつずつしか、としは取らないのかしらねえ。はやくお母さんはお話したいのにねえ」「おぎ、、!」 すこしの声にも、すぐさまあやしに入る小夜子。おのれには与えられることのなかった母の愛を、愛息にはたっぷりと注いでいる。しっかりと乳房にすいつく愛息が、小夜子には可愛くてたまらない。
「看護婦さん、きて! はやくきて!」 半狂乱でさけぶ小夜子の姿が、きょうもまた見られた。あわてて飛んできた看護婦にたいし「おかしいの、おかしいのよ。赤ちゃんが、わたしの赤ちゃんがね、おっぱいを戻しちゃったの。先生に診てもらったほうがいいわね?」と泣きさけぶ。「大丈夫ですよ、御手洗さん。ゲップをしたときね、すこしもどすのは珍しくないんですよ」看護婦のことばは「いいえ! こなにかの病気だったら、どうするの。やっぱり、診てもらわなくちゃ。はやく先生をよんで!」と、一切うけつけない。
一事が万事だった。ささいなことを大げさにとらえては、泣きさけんだ。「針小棒大って、このことよね。仕事にならないわ、ほんとに」「先生が甘やかすからよ。なんでも、『はいはい大丈夫だよ、もう』なんてね」不満のこえを声高にあげる看護婦たちにたいし「多額のこころづけをいただいたでしょ。多少の我がままはしんぼうなさい」と、婦長は取り合わない。「でも、婦長。仕事になりません、あたしたち。あんななんでもないことでいちいち呼び出されたんでは、他の患者さんたちにも悪影響をあたえます。ほぼ全員から、いやみを言われているんですから」「まあね、確かにね。度をこしてるかな? って思うこともねえ。でもねえ、先生に言われているしねえ。『初めての出産で、不安がいっぱいなんだ』って、わざわざ念を押されたし」

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