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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (三百八十四) 

2023年08月15日 外部ブログ記事
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 医師のこえが、分娩室にひびく。小夜子の声をかきけすように、大きな声をだしている。「もういや、先生。こんなに痛い思いをするなら、赤ちゃん、もう要らない。もう二度と産まないから。あっ、あっ、痛い! タケゾー、タケゾー、助けてええ! 手を握ってえぇぇ!」 あらんかぎりの声をしぼりだす、小夜子。その絶叫ぶりに、舌をかまれては大変だと、口のなかにガーゼが入れられた。「うぐっ! うぐっ! ふー、ふー! うぐっ、うぐっ! ふー、ふー!」「奥さん、おくさん、頑張って! 気をしっかりもって! 赤ちゃんもがんばってるのよ、奥さんもがんばらなきゃね。女の根性をみせなさい。男なんかに負けないんでしょ?」 気を失いかける小夜子を、産婆が叱咤激励する。ときに頬をたたいて、小夜子の手をしっかりとにぎった。「ここで頑張らないで、どこで頑張るの? 女の強さをみせてやんなさい。 男なんかに負けてたまるか! でしょ? 新しい女は、強いんでしょ?」「うん、うん」とうなずく小夜子。必死の形相で歯をくいしばり、その痛みに耐えつづけている。
 夜も明けて、窓のそとが白々としてきた。ぐったりと疲れはてた小夜子だが、まだ赤子の誕生にはいたっていなかった。医師はもちろん看護婦たちにも、疲労の色はかくせない。「先生、どうしますか。帝王切開に行きますか?」 婦長が、ちんつうな面持ちで問いかけた。しかし医師は「いやだめだ。なんとか自然分娩でいこう」と、ちからなく首をふる。「まだ若いんだ、体力があるんだ。体に傷をのこすのは、できるだけ避けたいしね。ご主人も、それを願っておられることだし。もうひと踏ん張りしてもらおう。」“今度だめなら、止むを得んだろう” のどまで出かかったことばを、グッと飲みこんだ。武蔵の懇願がみみにのこっている。「帝王切開は、ギリギリまで待ってください。自尊心の強い女です。体に傷がのこってたりしたら、絶望のあまり、とんでもない事態になりそうな気がします」「母体が危険だと判断しましたら、御手洗さん、施術させてもらいますよ。とに角、赤子が大きくなり過ぎた。この二週間のあいだに、驚くほど大きくなってしまったんですよ」
「ほんぎゃあ、ほんぎゃあ!」 ひと際大きな泣きごえが分娩室にひびいたのは、入院翌日の午後にはいってからだった。分娩室に入ってから、二十時間を超えるときが流れていた。いくどとなく帝王切開の準備にはいったものの、踏みきれずにいた医師。大きくため息を吐いた。「ふーっ。みんな、ご苦労さん。よく頑張ってくれた、上出来だ。切らずに済んで、なによりだ。婦長、ありがとう。産婆さん、たすかったよ。あんたの声がけが、功を奏したようだ。ありがとう」 達成感とは程遠い安堵感を感じる婦長、「頼みますよ、婦長。なんとか、帝王切開だけは避けてください」という武蔵のことばが、ずっと耳をはなれなかった。

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