花かるた

分かれ道 

2023年05月12日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

その日、彼はなかなか職場に来なかった。
彼は60歳独身で、定年後の再雇用になったばかり。
年に数回だが、ここ10年程、馴染みの営業さんだ。

午後5時頃になって、やっと店頭に現れたその顔色は
紙のように真っ白だった。元々が女も羨む、もち肌、色白
ぜい肉全く無しの人だが、顔は異様な白さに見えた。

具合が悪いんや・・と、彼は言った。
その身体に異変が起きている事は、私にも分かる。
直ぐに、病院に行くことを強くすすめたが、終業後は
這うように帰宅して、様子見をしたらしい。

そして何と、翌日、翌々日も不調をこらえて出勤してきた。
「馬鹿じゃないの!」と言いながらもお見舞いと称して私は
自分と同じお弁当を、もう一つ作ってきて渡したのだった。

それから半年がたち、再会した彼の頬には幸いなるかな
血色が戻っていた。狭い社会の中、風の便りで何となく
その後の様子を、聞いてはいたものの、今にして思う事だが、
彼はその時、生死の分かれ道に居たのです。

大腸、小腸、肝臓の一部を切除する大手術をこの半年間に
3回も受けたと言います。言葉少なく武勇伝を語った後に
もう懲り懲りやわ〜!と言う。
「背骨に挿すんやで〜こんなん」
「麻酔な、その注射が痛い事!怖い事」
「一回や無いんやで〜何回か刺すんよ」
微動だにしないよう数人で、押さえつけられたそう。

腹部には3回分、3つの大きな切腹跡があると言うのに
これが一番印象に残ったらしい。

それにしても、相当に進行していた筈の癌からの生還
「何と幸運なこと!回復も早くて良かったね!」
復帰祝いと称して、前回大喜びしてくれた手作り弁当を
また作ってあげた。あまりに喜ぶので翌日も作りそうに
なったが、拙いボロが出ないうちに止めておきました。

これまでも、似たような状況で、あちらの世界に召された
仕事仲間を何人も見知っています。何か変、調子が悪い。
そう感じながら、目の前に控えるイベントの準備や本番に
気を捕られ、終わってから受診してみると自分の人生が
終わりかけている事を知って、愕然とするのです。

時として、彼ら彼女らが、生き生きと働いていた頃の
顔や姿、時々の会話を思いだします。憎らしさも含めて
そして、私は寂しい気持ちになるのです。
嫌も応もなく、一日9時間程の密で長い時間を
狭い空間で共に過ごすのですから。


お弁当を渡しながら「君が居なくなったら寂しいから!」
そんなふうに、本音半分で揶揄ったところ
「やめてぇ!縁起でもないわぁ!」と怯えた表情を
浮かべながら、お弁当を抱いてあとじ去っていきました。

大病を経て、ますますガリガリになった身体。
小さいドングリ眼を見開いちゃって。。可愛いそうだな〜
またそのうちに、お弁当を作ってあげようと思いました。


たまに仏心、気ままで気まぐれ、小さな親切自己満足
霞むことなくまだ見える、己の足元朧月夜
皆さま御身お大切に 

長文お付き合いくださいましてお礼申し上げます。



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onさんへ

月あかりさん

あら、onさんにも沢山の車中泊仲間がいらっしゃるでは
ありませんか。

こちらは、お堅い仕事仲間ですが
チームで仕事をするので、結束力があるのです。
それに・・・
皆さんが考える以上に
実は私は優しいんですよ(^_-)-☆

2023/05/13 12:03:02

そんなふうに

onさん

思ってもらえるなんて

彼はホントに幸せな人だな〜(^_-)-☆

2023/05/13 10:03:48

草庵さんへ

月あかりさん

毎日寒いですね。仕事が一件終わったので
自堕落生活を享受しています。しあわせ〜、

そうなんです。パワハラモラハラ等は何とか
撃退できても、体内の異変はつい見落としがち?この彼の体内ではこの時癌が腸を癒着させていたみたい。腸捻転も起こしかけていて
一部壊死していた何ちゃら(^^;;相当な痛みでしょうに、どんな我慢か?バカですね。

食事も最後の最後。売り切れてゆで卵と菓子パンしかなかったとか酷いですよね。身体に同情してしまい、お弁当をついでに作りました。1つも2つも大差ないので。

2023/05/13 08:39:34

幸いなるかな 月明りさんのお弁当を食せし人!

草庵さん

顔色が良くなったのは手術のせいだけではないかもしれませんね!

それにしても日本人はいまだに仕事人間が多いです。
自分の命よりも仕事優先。
働き方改革なんて大義名分を掲げても、パワハラ・モラハラ横行している限り、自分だけ緩くとはいかない日本。

人も羨む手づくりお弁当。
救いの主のご加護を待っている人が多いかも^^?

2023/05/13 08:18:17

来音さんへ

月あかりさん

昭和初期生まれの両親に育てられた子供は
厳しい教えが身についていているせいか
限界を超えて頑張ってしまうようです。

営業職は社の外に出てしまうので、遊んで
居ようが自己管理。要領のいい人は
ここまで働きませんが、彼は仕事人間。
数字が気になり人に任せられないのです。
タイプA人間とか言いませんか笑

2023/05/13 08:17:43

大変な世界ですね

来音さん

まだまだ、あるのですね。
平成以前の時代では普通にあったような気がします。
優秀な人ほど、過労で倒れ...

今は法律で結構守られているはずなのですが、まだまだ
存在するのですね...

でもその方は元気に復帰されて良かったですね。
陰の立役者が月あかりさんということを思っているのでしょうか...

2023/05/12 23:53:04

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