読書日記

『女だてら』 <旧>読書日記1370 

2023年04月27日 ナビトモブログ記事
テーマ:<旧>読書日記

諸田玲子『女だてら』角川書店(図書館)

18世紀末から19世紀半ばにかけて、つまり江戸後期の漢詩人に原采蘋(ハラ サイヒン)がいた。本名は猷(ミチ)と言い、普段は男装しているが実は女性である。新読書日記345の山本志乃『女の旅』中公新書に取り上げられてもおかしくない人物であるが、残念ながらその本には出ていない。

本書はその原采蘋を主人公にしたものであり、「BOOK」データベースによると内容は
文政11年、漢詩人・原古処の娘であるみちは、若侍に姿を変えた。昨年、秋月黒田家の嫡子が急死し、福岡の黒田本家の専横に対抗できる人物を立てるべく、京、そして江戸へと向かう密命をおびたためだ。女であることをひた隠しにしながら任務に邁進するみちに、兄の友人・石上玖左衛門という心強い旅の道連れができる。だが酒を酌みかわし、心を通わせていく一方で、みちは、彼にも秘密があるのではないかと疑心暗鬼に囚われる。不気味な追っ手の影、錯綜する思惑、巨大な陰謀―聡明なみちは得意の変装術と機転で、危機を切り抜けていくが…。実在した漢詩人・原采蘋の数奇な半生と、秋月黒田家お家騒動の驚きの内幕をスリリングに描いた、圧巻の歴史ミステリー。
ということになる。

巻末に著者のあとがきがあり、それによると采蘋は父を看取った後故郷の秋月から江戸へ遊歴の旅に出て『東遊日記』を書いているが、その日記の途中1828年4月14日兵庫宿から翌29年に江戸浅草の称念寺の庵に仮寓している所までの間がポッカリ抜けていて足取りはつかめず一つの漢詩も書いていない、という。

その空白の時間を著者は秋月黒田藩のお家騒動に原采蘋が関わったとしてフィクションを練り上げたのが本書ということになる。

読み出せば、謎の同行者である米助とおひょうについては結局忍びであるとは判るが、なぜ同行したかなど謎が謎ののまま終わってしまう感じであったけれど、小さな傷であろう。女性であることを隠しての旅はスリル満済ではあるし、その道中で知り合う人々と言うかツテを頼っての邂逅はスムーズすぎてコクは無い。
とんとん拍子に話しは進み、見事采蘋の試みは成功するのである。「小説 野性時代」に2019年1月号から12月号までの連載であったそうだが、連載ゆえの話の進展なのかもしれない。

漢詩人としての原采蘋を正面から取り上げても良かったのではないかとも思えたが、それは采蘋の評伝を書いた小谷喜久江(『女性漢詩人 原采蘋 詩と生涯 孝と自我の狭間で』『楊花飛ぶ 原采蘋評伝』)に遠慮したものかも知れない。
(2020年9月19日読了)



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