読書日記

『大名倒産』上下 <旧>読書日記1585 

2024年04月29日 ナビトモブログ記事
テーマ:<旧>読書日記


浅田次郎『大名倒産』上下 文藝春秋(図書館)

浅田次郎はうまい、と思う。少し、無理な筋立てであっても語り口のうまさで読者を引っ張っていく。と言うか、連載作品の場合、途中で語り口を変えて見たり、妙な人物を登場させたり、読者を飽きさせないうまさがある。

本書も「文藝春秋」誌に2016/4〜2019/9の間3年半にわたって連載されたもので、長兄が急死し、次兄は作庭に励む道楽者、三兄は病弱ということで急遽選ばれて庶子ながら丹生山松平家三万石の家督を継いだ大名の話である。時は文久2年(1862年)明治維新の6年前であり、ペリーはもう来日していて開国している時期。

さて、襲封したものの、丹生山松平家は先祖代々の借金が積もり積もって25万両、利息だけで年に3万両を払わなければならないが、収入は年1万両に過ぎない。「火の車」という形容では物足りないほどの経済的な苦境で、その状況は老中の板倉周防守にまで知られている。この状況から立て直しを図るのが主人公である小四郎(正式には松平和泉守信房)で糞の字がつくほど真面目な性格。

ここで登場するのが小四郎に家督を譲り、隠居した第12代藩主。柏木村の下屋敷に隠居しているが、時に百姓与作、茶人一狐斎、職人左前甚五郎、板前長七に扮装して行動し、家臣たちを翻弄するという困った隠居である。がしかし、その実、自藩の窮状を救いがたき物と考えて「大名倒産」を策し、隠し金を秘かに貯め込み(倒産後家臣たちに分配するつもり)、小四郎には倒産の責任を取らせて腹を切らせれば良いという計画をたてており、その秘密を家老など主要な家臣7人と共有している。

そうとは知らぬ小四郎は父祖から受け継いだお家を潰すまい、美しき里である領地(作者は越後の村上藩を想定している)の民を路頭に迷わせまいと、江戸とお国を股にかけての小四郎の奮戦が始まる。一方で丹生山松平家には貧乏神がとりついており、さらに7人でようやく一人前の能力を持つ七福神が絡み、この藩の運命や如何に・・というコメディタッチの話である。

作者は以前から江戸期の大名は企業と同じではないかという着想を持っていた様であり、それが題名にも現れているが、比喩であればともかく藩を倒産させようと言うのはさすがに難しいのではなかろうか?その無茶を絶妙な語り口でいかにもありそうな話としてまとめ上げているのは作者の豪腕であろう。

また、冒頭付近で述べられる江戸時代は260年間も平和を維持できた、一度も大きな戦争が起きなかったという稀有な時代であるがために、前例尊重が進んで何の為に始まったか理由もわからぬ「繁文縟礼」が積み重なっていく。という指摘は当たっている。この本の出版後にコロナ禍が発生するが、これに対処する過程の中で政府の硬直ぶりが明らかになっていったが、変革は起こるのであろうか。
上巻(2021年10月13日読了) 下巻(2021年10月16日読了)



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