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読書日記
『黄色い実』 <旧>読書日記1369
2023年04月25日
テーマ:<旧>読書日記
吉永南央『黄色い実』文春文庫
紅雲町珈琲屋こよみシリーズの7冊目で長篇である。
内容は裏表紙の案内に寄れば
お草の営む「小蔵屋」の頼れる店員・久実。なぜか男っ気のない久実にもついに春が…?浮き立つ店に、元アイドルの女性が店の敷地内で暴行を受けたという衝撃のニュースが飛び込んでくる。容疑者は地元名士の息子。そして、暴行現場で拾った「あるもの」がお草と久実を悩ませることになる。
というものであるが、小蔵屋の日常などが描かれる導入部から今の社会問題の一つに繋がる構成は自然だ。
名指しされているのに警察の捜査は進まず、被害者への言挙げがかまびすしい。被害者の二次被害であるとか、未遂事件の被害者の感情とか、周囲の思いと行動、そしてお草の考え方が作者の考えを代弁する。
これについて作者の立場はある意味明快で「こうしたことが起こってはならない」というもの。それには賛成するが、実際に自分の目前のこととなると難しい。世間というものの理解の無さ、無責任な噂などにも作者は触れているし、加害者の母親と父親の立場の差なども示されていて、うまくまとまっている。
物語の終盤で久実の前に新たな道が示され、小蔵屋は新しい店員を雇うことになるかもしれないと言う場面がある。ハッピーエンドとは言えないものの、それなりの暖かさをもって本篇は終わる。
(2020年9月16日読了)
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