読書日記

『敬語で旅する四人の男』 読書日記186 

2023年04月20日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書日記

麻宮ゆり子『敬語で旅する四人の男』光文社文庫

この本は同じ著者の『仏像ぐるりのひとびと』をんで以来の宿題であった。題名から考えると、旅する4人は微妙な距離感を持っている間柄だと思える。どこへ、どんな風に、どんな関係で旅をするのであろうか?

内容紹介によると
真島圭太・29、律儀で真面目、振り回され上手なモラリスト。繁田樹・33、上昇志向が空回りする、女好きバツイチ研究者。仲杉幸彦・28、チャラい言動で自爆しがち、人なつっこい営業マン。斎木匡・30、人の気持ちをはかるのが絶望的に不得意なイケメン。仲良くもなく、友だちでもない四人の青年。ひょんなことから連れ立った旅先に、それぞれの人生の答えがあった!…のか?ちぐはぐな会話、歯がゆい距離感。四人それぞれの、ひそやかな決意―第7回小説宝石新人賞受賞作収録。

というのであるが…「敬語で旅する四人の男」「犯人はヤス」「即戦クンの低空飛行」「匡(タスク)のとおり道」の4篇が収められ、それぞれの視線で語られる。全体としての中心人物は「面倒くさい人」の斎木匡である。

まず「敬語で旅する四人の男」は真島圭太の視線である。職場の同僚で中学・高校の先輩である斎木匡にふとした時に、佐渡に住む母に会いに行くことを話したことから四人で揃って旅行にいくことになる経緯が語られる。何しろそれを聞いた先輩は「自分も一緒に行く」と言いだし、「二人では嫌だ」とやんわり断ったところ、ではということで同じ大学出身の繁田を巻き込み、繁田は飲み仲間の中杉を旅行に巻き込むという次第。そして、2泊3日の佐渡旅行、2日目に真島は皆と別れて一人で母親に会いに行き、夕方3人と合流して翌日帰るという日程である。なお、旅行の計画と手配は先輩が行った。かくて、互いにさほど親しくも無い男4人の互いに敬語を使い合う旅の一部始終が語られる。

「犯人はヤス」は斎木以外の3人が京都に行く話。もっとも、斎木も後で合流するのであるが・・。今回は繁田が別れた妻に会いに行く、というか正確には分かれた息子のヤス(まだ2歳)を愛宕山に登らせるのがミッションである。良く判らないが京都には3歳になるまでに愛宕山に登ると子供の将来が云々という言い伝えというか伝統があるらしい。ということで4人とヤスが過ごす1日が描かれる。

「即戦クンの低空飛行」は仲杉視点の話。恋人の詩織のキツイ束縛と勤務先の無茶な人遣いに疲れ果て「顔が土色だった」と同僚から言われ、真島の提案で鳥取砂丘に行くことになる。鳥取砂丘は仲杉の死んだ恋人(と言えるかどうかの関係)新開さんといつか一緒に行こうと言い合っていた所だ。新開さんはバイクの後席に仲杉を乗せて走るのが好きだった。「後ろに幸彦君が乗っていないとスピードを出し過ぎちゃうと言っていた新開さんはバイクの事故で死んだ。鳥取からもどった仲杉は意を決して詩織との別れ話に臨む。

最後の「匡(タスク)のとおり道」は面倒な人の匡視点である。匡は真島の会社には「特別枠」で入社している。朝食はパン、夜10時に入浴するなどの日課を定め(旅行中でもそれを貫徹する)、人とのコミュニケーションは不全で、説明は口でされるより、文書でわたされる方が理解しやすい。そして、自分に適した仕事は天才的な正確さと速さで片づける。一度、紙を通して目にしたものは覚えている。面倒な奴と思われながらもとりあえず暮らせているのは、彼を受け入れ、かばい続けてくれた母親の言葉を守っているからだ。母親は「人には親切にしろ」だけでは理解できない匡にこのような場合にはこのように言えと具体的に丁寧に教えてくれた。そんな匡が会社のビルの清掃をしているアルエと知り合い、熱海に一緒に行くという話。

ところで、書評家の東えりかによる巻末の解説によると、「敬語で旅する四人の男」は第7回小説宝石新人賞を受賞したのであるが、その時選考委員であった朱川湊人は「この作者は『敬語で〜』で一冊作るから、あと四本書いてごらんと言ったら書けると思うんですよ」と予言のような言葉を出した、という。本書は初めの二篇が雑誌(宝石)連載、後の二篇は本書のための書き下ろしということで、なるほどこの言葉は成就されたのである。
(2023年4月3日読了)



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