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読書日記
『戒名探偵卒塔婆くん』 読書日記183
2023年04月14日
テーマ:読書日記
高殿円『戒名探偵卒塔婆くん』KADOKAWA(図書館)
この著者の本、エンターテインメント性が強く、(きちんと分析した訳では無いけれど)文章に勢いがあって、もっと読みたいと思って読み続けてしまう。だが、問題点は人気があるために特にシリーズものは図書館では借りにくいこと。今回のこの本は単発本であったので、すんなりと借り出せた。
で、この本は「名は体を表す」内容で、紹介によれば
「僕に解読できない戒名はない」前代未聞の戒名ミステリー!
のほほんと生きる金満寺の次男・春馬は
金に汚く横暴な住職代行の兄に寺の無理難題をふっかけられがち。
今日も今日とて、古い墓石の身元を探している。
手がかりは石に刻まれたたった数文字の戒名だけ!?
しかし、春馬には同じ高校に通う『戒名探偵』――外場(そとば)薫という切り札があった。
なぜか仏教に異様に詳しい彼は、この日も墓石の写真を見ただけで
すらすらと身元を言い当てるのだ。
有力檀家のルーツ探しに、仏教界びっくりドッキリイメージアップ大作戦!
謎が謎を呼ぶ、巨大コンテンツメーカー創始者の生前戒名を巡る骨肉の遺産争い……
知れば知るほど面白い仏教の世界の謎を、外場=卒塔婆くんが解き明かす!
と言うことになるが、戒名探偵は春馬の同級生の外場=卒塔婆くんであって、東京・麻布の由緒ある寺の次男、高校生の金満春馬は狂言回しの役割である。上の解読出来ない云々も卒塔婆くんの台詞である。「戒名探偵 卒塔婆くん」「我が青春の麻三斤館」「西方十万億土の俗物」の3つの短篇と「いまだ冬を見ず」の中篇+エピローグで構成されている。
外場=卒塔婆くんの持つ仏教・墓・戒名の専門的な知識に作者は戒名などについて勉強した跡があるけれど、私には少し物足りなく、判る点のみを取り上げてのつまみ食いという感じがした。「僕には解読出来ない戒名はない」というし、その戒名からどの様な人生を歩んだかが判ると称しているけれど、そもそもほんの1〜2文字の戒名でその人の人生をすべて示せるはずがない。
また、死後に俗人にも戒名を付けるというのは日本だけの習慣であり、本来は仏道に入るに当たって授けられる名が戒名であって(この点に触れられていないのはどういう訳だろう)、そうした人がどの様な修行の道を歩むかは予測不能のはずで人生を示すなんてあり得ない。
それとは別に扶持としての1石を現在価格にして72万円(p.25にある)としているのは高く見積もりすぎであろう。単純に米の値段とすれば1石は150kgで米1kgを500円としたら75000円…私はこの価格を標準的な米1石の価値としている…まあ、高く見積もっても米1石=金1両=10万円と言う所ではないだろうか。あ、江戸時代の金1両はおよそ18gの重さなのだが、現在金価格は高騰しているので15万〜20万円という所である。
ま、短篇3つは一種の蘊蓄話だが、中篇は話の内容が大きく変わって、とある人物に生前戒名を付けると言う話が大きく変化して太平洋戦争中のパラオ・ペリリュー島の戦いに関わるものになっている。作者ははじめからこの話が書きたかったかのかどうか、意図は分からない。
ちなみに初出はいずれも「小説現代」で「戒名探偵 卒塔婆くん」(2012年3月号)「我が青春の麻三斤館」(2013年1月号)「西方十万億土の俗物」(2016年8月号)「いまだ冬を見ず」(2017年7月号、8月号)であり、本書出版は2018年11月2日である。
(2023年3月30日読了)
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