読書日記

『切腹屋』 読書日記182 

2023年04月12日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書日記

岩井三四二『切腹屋』光文社(図書館)

この題名を見れば連想するのは大名家の門前で「切腹の場をお借りしたい」と言い立てて、迷惑を恐れる大名家から幾ばくかの金をせしめる、という映画であるかもしれない。が、その想像はまったく違っていた。いや、読んでいる間はこの題名は何かが間違っているとすら思えた。それが最後には納得させられるのであるが・・

内容紹介によれば、以下の通り。

江戸時代に裁判は公事とよばれた。公事の当事者に手と知恵を貸す商売・公事師の駆け出し・辰次は、松代藩山手村から江戸に公事に来た村人代表の伊左衛門、三平、善六に、負けたら切腹してみせる、と大見得を切り、大金三十両の仕事を引き受ける。辰次が事情をよく聞けば形勢は山手村に圧倒的に不利で、しかも相手方の坂田町には謎の凄腕公事師・唐物屋がついているという。このままじゃ公事に負けて本当に切腹だ!世話焼きの昔馴染み・おつうに尻を叩かれたり、元大奥の奥女中のばあさん・藤波の手を借りたり、あの手この手で必死になる辰次に逆転の目はあるのか?歴史小説の名手が、お江戸の町で活躍する若い公事師の姿を軽妙に、人情味豊かに描くエンタメ時代小説の快作!

この話のポイントは「エンタメ時代小説」であること。著者は重厚な作品で知られ、戦国時代や幕末が主な舞台であった時代小説を綿密な考察とともに室町時代まで広げた(同様に中国史に分け入ったのが宮城谷昌光である)。

その著者がここまでエンターテインメントに振った話を書くとは驚きであった。まあ、今までもユーモア溢れる作品は書いていたのだから、おかしくは無いかもしれない。

この公事で辰次は山手村に有利な内済を得るという実質勝訴を獲得するが、山手村の一行は村に帰る時に辰次を他の衆に推薦していくのであるが、公事師とは呼ばずに「切腹屋」と呼んだのが評判となってしまう。ああ、オチはこれなのか。
と納得したところで話は終わる。
(2023年3月27日読了)



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