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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (三百二十三) 

2023年02月21日 外部ブログ記事
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 それからわずか五日後のこと、小夜子との約束をはたさぬままに、勝子がこの世を去った。無念な思いをいだいたままの死であったはずだが、あの日のたった一日だけの外出が、無味乾燥な勝子のそれまでの一生に華を咲かせた。衰弱していく己の体を、愛おしく感じた勝子だった。 きょうの空は快晴に近い。うすい雲らしきものが浮かんでいるだけだ。いまひと筋のひこうき雲があらわれた。左から右へとながれていくそれを見上げながら、勝子の口からゆっくりと言葉が発せられた。
「ありがとう、小夜子さん。うれしかったわ、ほんとに。あの日いち日のことは、あたしにとって最良のいち日だったわ。ほんとよ、小夜子さん。死期が早まったのでしょう、お医者さまは反対されていたものね。でも、あたし、後悔していないから。ううん、逆ね。あの日がなかったら、それこそ死んでも死にきれないおもいだったわ。哀しまないで、小夜子さん。感謝してます、本当に」 弱々しい声ではあるが、ひと言ひと言を大切に話す勝子だった。おのれの思いを、キチンと伝えたいという願いの声だった。
「それから、お母さん。お母さんには、ごめんなさいとしか言いようがないわね。親不孝な娘で、ごめんなさい。でもお母さん。あたしはお母さんの娘として生まれてきて良かったと、心底思っています。勝利という立派な弟を与えてくれたことも、ほんとにありがたいと思っています。こんな病弱な姉をもった勝利がふびんだとは思うけれど、これからは、天国に召されたあたしが、勝利をしっかりと見守ります。それで勘弁してちょうだいと、そう伝えてね。大丈夫、大丈夫よ。あたしはちっとも不幸だなんて思ってないから。ごめんなさい、おしゃべりが過ぎたみたい。すこし眠らせてね。大丈夫、また起きるから。でね、お母さん。こんど起きたらね、我がままを言っていい? 一度だけ、一度だけでいいから、ビーフステーキとか、、、」
 とつぜん勝子の声がとぎれた。勝子ひとみ瞳の力が、次第に弱っていく。あわてて小夜子が、病室をとびだして医師を呼びに行った。機敏にうごく小夜子が、母親にはありがたい。ひとりで看病しているならば、ただただ、おろおろとしてキョロキョロと辺りを見回すことしかできまい。声を上げようにも、いまのわたしにはその力もないわ、そう決めつける母親だ。 辛い思いばかりをさせてきた。病に冒されている知ったときにわたしがしたことといえば、民間医療をためしたり祈とう師を呼び込んだりと、苦しめることばかりだった。キチンとした病院でみてもらうこともできたのに、せっかく勝利がしっかりとお金をかせいできたというのに、あたしときたら、親の力の及ばぬ事のいいわけに……。ごめんよ、勝子。おまえをころしたのは、このわたしなんだね。わたしがおまえを、おまえを、…… ベッドの脇にに泣き崩れてしまう母親だった。

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