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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜(三百二十二) 

2023年02月16日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



「きょうね、勝利の会社に行ったの。ほんと、良かった。みなさんがね、すごく歓待してくれてね。うれしかった、あたし。ほんと、勝利の言うとおりだったわ。あたしね、母さん。みなさんに好かれてるの、びっくりした。でね、みなさんがね、あたしのこと美人だって。加藤専務さんなんてさ『いずれがアヤメかカキツバタか』だって。小夜子さんよ、小夜子さんとよ。びっくりよ、もう。奥からね、服部君がね、大きな声でね、くくく、ほんとに勝利の言うとおりだったわ。あたし、がんばるから。しっかりお薬のんで、きっと病気に勝ってみせるわ。ええ、負けてたまるもんですか。元気になって、退院して、小夜子さんとお食事して、それから、それから……」
 とつぜん勝子の声が小さくなった。あわてて看護婦を呼びに行きかける勝利に、勝子が快活にいった。「ごめん、ごめん。恥ずかしくなっちゃって。あたし、恋をすることに決めたわ。お嫁さんになれなくてもいい。分かってる、分かってる。あたしの体だもの、お嫁には行けないってことぐらいは。だまって、聞いて。殿方とね、いっしょに映画をみるの。そしてお食事をして、それから少しお酒をいただいて。いいじゃない、少しぐらいなら。ひと口だけでも、飲んでみたいわ。ええええ、どうせすぐに真っ赤になっちゃうわよ。ほんのり桜色も、どう、色っぽいんじゃない? ね、そう思わない? えっ? 服部君と山田君のどっちだって? ふふ、だめ。ふたりとも、お金持ちじゃないから」 キラキラと瞳を輝かせて、空を見つめる勝子だ。その目には、竹田も母親もそして小夜子も入っていない。しかし勝子の脳裏には、しっかりと思いえがく男性がいた。痩せほそったあばらがすこし浮きでている白い裸体をみせた、ただ一人の異性がいた。
「姉さん。服部君と山田君、すごく残念がってたよ。今日にもね、求婚するんだなんて言うんだぜ、山田君。いくらなんでもそりゃ早すぎるんじゃないかって、服部君が言ったけどね。そしたらね、山田君、『あんな美人を男がほっとくもんか。あとの祭りなんてことになったらどうするんだ!』って、かみついてたよ」 左右の手を母親とともににぎりあいながら、目を閉じた勝子に語りかけた。うんうんとうなずく様に、手をにぎる力をつよめる竹田だった。「そうね、そうよね。また、お出かけしましょうね。美味しいもの、食べましょうね。あ、あたしじゃないのね。未来の旦那さまとごいっしょなのね。はいはい、分かりました。武蔵にたのんでおくわ、すてきな殿方をご紹介してあげてって。服部や山田には可哀相だけど」「そいつは困ったぞ。二人には、なんて言えばいい? もう明日にでも、病院に押しかけてくるかもだぜ。ぼく、ふたりに恨まれちゃうよ。いや、ふたりに袋叩きにあうかも。そのときは、姉さんのとなりにベッドを用意してもらおうかな?」「いやあよ、そんなの。弟がいるようじゃ、殿方たちに寄ってきてもらえないでしょ」 白い部屋に、明るい笑い声がひびきつづけた。

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