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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (三百二十一) 

2023年02月15日 外部ブログ記事
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 医師から告げられたことば、常在戦場ということばが、小夜子に覚悟のこころを持たせていた。「そこのソファに横たえさせて。竹田! 先生に連絡は取れたの? で、なんとおっしゃって? いいわ、電話を代わりなさい」 要領を得ない竹田の返答にいらだつ小夜子が、竹田から電話をひったくった。「先生ですか? これからすぐに伺います。はい、意識はもどりました。一時的になくしましたが、声をかけたらもどりました。ええ、熱は少しあります。のどの渇きを訴えていますが、お水をいいですか?」
 小夜子が手で指示をする。勝子のまわりでおろおろとする竹田に対し、「竹田! お母さんを病院まで連れてきなさい。勝子さんにはあたしが付き添うから。四の五の言わずに、早く行きなさい」と、小夜子の叱責がとんだ。「分かりました、すぐに連れてきます。社長、車をお借りしていいですか」 小夜子のうしろで、その指図ぶりをうなずきながら見ている武蔵の声がとんだ。「はやく行け!」
 息せき切って駆けつけた母親。しかし意外にも、その表情は落ち着いたものだった。覚悟を決めているのではない。いよいよという時をむかえる前に、勝子に娘としての喜びの一部だけでも感じさせられたことで、安堵感をおぼえていた。娘時代を病院のベッドの中で終える運命だった勝子に、わずかな日々とはいえこころ弾むひとときを味あわせることができたのだ。これで良かったの、と思いきかせる母親だった。「小夜子さまのおかげだよ、勝利。このご恩は、一生わすれちゃいけない。いいね、人間としての最低限のこころだよ」 毎夜の如くに、お念仏を唱えるがごとくに竹田は聞かされた。昨夜もまた「あしただね、勝子が娘になれるのは。いままで女としての勝子はいなかったからねえ。精一杯楽しんでくれるといいねえ。ほんとに、小夜子奥さまは観音さまだよ」と、いまにして思えば、この最期のときが明日だと感じているかのようだった。「分かってるよ、母さん。ぜったい、忘れはしないよ」。竹田が毎夜となえるお念仏だった。
「勝子、勝子。どうだった? 楽しかったかい? すてきなお洋服らしいね。とても勝子に似合うって、小夜子さまにお聞きしたよ。さあつぎは、お食事だね。勝利もごいっしょさせてもらえるって、よろこんでるよ」 病状のことなど、ひと言も話さない。とに角、明日への希望だけを話しかけつづけた。勝利もまたそんな母親の横で、うんうんと大きくうなずいた。
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