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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜(二百七十三) 

2022年10月19日 外部ブログ記事
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 怪しかったくもり空からぽつりぽつりと雨粒が落ちはじめたのは、小夜子が駅の改札を出たころだった。着物類の大荷物は武蔵が持ち帰ってくれたものの、小夜子の母親澄江の思い出の品で、また膨らんでしまった。粗末なものではあったが、澄江の衣類を見ている内に、どうしても持ち帰りたくなってしまった。中でもどうしてもと思ったのは、安物の手鏡だった。 他人から見ればガラクタであるが、小夜子と澄江の会話時にはどうしても欠かせないものだった。面と向かって話すことを禁じられた小夜子、床に伏せったままの澄江、手鏡を上にかざしての会話だった。痩せほそった腕で差し上げられた手鏡。すぐにぶるぶると震えて、澄江のかおが歪んでしまう。まるで波紋が広がる水鏡だ。そしてすぐに、ぱたりと落ちてしまうのが常だった。
 小物入れ一つで帰るはずだった小夜子。およそ似つかわしくない大型のリュックサックが、加わった。汽車に乗るまでは、荷物棚に乗せるまでは、茂作の手助けがあった。小夜子の心に、満足感が広がっていた。しかし汽車を降りる段になって、後悔の念におそわれた。“今度にすれば良かったかしら。武蔵に持たせれば良かったのよ。でも今さらどうしようもないし” 途方にくれた小夜子、立ちすくんでしまった小夜子。見知らぬ人ばかりで、声を掛けることができない。否、これまでの小夜子では、誰かしらが進んで助けてくれていた。しかしいま乗客全員が降りきっても、ひとりボー然と座っている。車内見回りに来た車掌に見つけられるまで、放心状態でいた。棚から下ろされたリュック、結局のところ車掌が改札まで運ぶはめとなった。
「もしもし、富士商会ですか? あたし、小夜……」「うわあ! みんな、お姫さまからお電話よ! 早く、早く!」 小夜子の声をさえぎって、電話の向こうで大騒ぎしている。嬉しさを感じはするが、当惑の気持ちの方が勝ってしまう。「もしもし、もしもし。あのね、あなた。聞いてくださる?」「はい、お電話変わりました。徳子でございます、小夜子奥さま。お帰りなさい」
「徳子さんですか? ああ良かった。武蔵、居ますか? いま駅に着いたので、迎えにきて欲しいのですけど」「申し訳ありません、社長は出張中でございます。あ、ご心配なく。社長よりお早くお帰りになられたら、社員の竹田を回すように仰せつかっております。すぐにお迎えに走らせますので、少しお待ちくださいませ」「そうですか、出張ですか・・」迎えを出すということに安心を覚えた小夜子だが、すぐに出張に出てしまった武蔵が恨めしくも思えた。

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