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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百七十二) 

2022年10月18日 外部ブログ記事
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「いや参った、うまく逃げられてしまった。次回の宿泊時には、他の客が居るからとか何とか、そう言って逃げるわけだ。そして次々回の泊りを期待させるわけだ。女将、この手で何人の常連客をつかんでいるんだい」「あらあら、なにを仰います。こんなあたくしにお声を掛けてくださったのは、社長さまだけですわ。相当にお遊び慣れてらっしゃるのですね。社長さまこそ、何人の女将を口説き落とされたのでございますか? でも後家の炎は、激しく燃えますわよ。奥さまのご機嫌を損ねるようなことになっても、およろしいのですか?」
 さりげなく妻帯者かどうかの確認をするぬい。少々本気が混じり始めたのかもしれない。「うん、新婚さんだ。まだ式を挙げてから、一週間と経っていない。新婚旅行を後回しにしての出張さ。いや、女将に出逢わさせるための神様のいたずらか?そりゃ、冗談だけどね」と、悪びれる風もなく答える武蔵だ。「ほんとに憎らしいお方だこと。ドンファンと言う言葉は、きっと社長さまのために遠いフランスから入ってきたのですわ」 武蔵の二の腕を軽くつねるぬい。武蔵はここぞとばかりに、大仰に痛がってぬいの指をからめとった。「うん、きれいな指だ。女将の指は、こうでなくちゃいかん」と、手の甲をさすり始めた。
「けれどね、女将。新婚だからって、他の女性に気をとられちゃいかんという法はない。床の間で見る美しい花があったとしても、外で見る美しい草花を愛でてはならぬという法はない。浮気は、男の力の根源だよ。神代の昔から己の子孫を残す行為は、連綿と続いているんだから」
「あらあら、社長さま」「女将は、“あらあら”が好きだねえ」「あらあら、申し訳ありません。使わないようにと意識しておりましたのに、とうとう出てしまいました。親しみを覚えます殿方には、ついつい。お耳障りでございましたら、ご勘弁くださいまし」
「いや、勘弁できんね。やっぱり、夜の露天風呂を一緒してほしいよ。考えてみれば、一人で満天の星というのは……。ちと、淋しすぎると思うのだけれど。どうやら今夜のぼくは、日本一淋しい男になりそうだ。実に悲しいことだ、実に。いっそこの指を、がぶりと行こうか。そうすれば女将に嫌われて、ぼくも観念できるかも」と、口元まで縫いの手を持ち上げた。
「あのお、女将さん。ちょっとよろしいでしょうか」 仲居のか細い声がする。二人の痴話話が途切れることなく続くために、中々声をかけることができずにいた。「楽しくお話しているのに、何の用なの?急ぐ話なのかい?」と眉間にしわを寄せて、きつい口調で答えた。「女将、そりゃいかん。早く行っておやりなさい。おふじさんだったね、悪かった。女将を長居させてしまったようだ」
「相すみませんことで。それでは何かご用がありましたら、何なりとお声をお掛けください。失礼致します」名残惜しげな表情を見せる、ぬい。それが本心かどうか、武蔵にも判別できない。“露天風呂が楽しみだよ、女将。といって、ほいほいと来られでもしたら、幻滅することになるかもしれんな”

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