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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百五十九) 

2022年07月14日 外部ブログ記事
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 迎えの車が時間通り、六時半に来た。 太陽は山かげから顔をだしていない。駅までは三十分ほどかかる。特急列車との接続を考えて、始発はやめにした。「そんなにあわてて出ることもなかろうに」という茂作のことばに、ほだされる思いが小夜子の中に生まれてのことだった。 物陰からじっと見つめる茂作に気付いた小夜子だが、素知らぬ振りをして戸口を出た。「行ってしまうのか、小夜子。もう会えぬかもしれぬわしを置いて、行ってしまうのか。いつお迎えが来るかも分からぬわしを置いて、行ってしまうのか」 ぶつぶつと気弱な言葉を吐きつつ、見送る茂作だった。
「ふふ……気が付いたかしら? 幸恵さん」 車中で、幸恵に問い掛ける。「なにを、ですか?」「お爺さまったら、声をかけることもできずに。あれで隠れていたつもりなのかしらね、丸見えだったわ」 思わず後ろを振り返ると、茂作らしき老人が道端に立っているように見える。「ぜんぜん、気が付きませんでした。でしたら、お声をおかけになればよろしかったのに」 しかし小夜子は、前を向いたまま後ろを見ようとはしなかった。
「だめだめ。きっと、知らぬ顔して家の中に入ってしまうわ。ぜったいに別れのことばなんか、くれないから。正三さんと東京に出かけたときもそうだったのよ。あのときは駅までついてきたんだけど」「でも……」「いいのよ、いいの。また遊びに来るから。お彼岸にお盆、そしてお正月にはお墓まいりしたいから。タケゾーが、そうしてやれって言ってくれてるから」 嬉々とした表情で小夜子が話すのだが、幸恵の表情にはかげりがあり声も沈んだものだった。「そうなんですか、ほんとに良い旦那さまですね。やっぱり、正三兄さんではだめです。小夜子さまには、いまの旦那さまがお似合いです。そういう巡り合わせだったのですわ」
 駅の待合室で、思い詰めた表情で幸恵が口を開いた。「じつは、小夜子さまだけにお話するのですが。両親にも話していないことなのです」「あら、まあ。そんな秘密事を、あたくしに話してくださるの?」 満更でもないのだが、面倒なことに巻き込まれるのも困ると考える小夜子だ。「じつは、ご相談というか…いえ、お教えいただきたいのです。兄から、返事が参りまして。あたしに、上京して来いと言ってくれました。それで来春の卒業後に、村を出たいと思っております」 もじもじと体を動かす幸恵だが、次のことばが中々出てこない。焦れ始めた小夜子が「何かやりたいことでもおありになるの? タケゾーにお願いしましょうか? 仰ってみて」 と、投げかけた。

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