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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百四十二) 

2022年06月08日 外部ブログ記事
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「婿さんよ、ちょっと」 ひとつの座から声がかかった。「なんでしょう?」 茂作の口撃に辟易し始めていた武蔵が、すぐに席を立った。「婿さん、あちらではおモテになるでしょうな」「どんな具合ですかの?」 嫁を娶っていない村人が、目を輝かせて聞いてきた。「都会のおなご子らは嫁さんになっても、やっぱりあれですかの?」「小夜子よりべっぴんは、おらんですかの?」
「いやいや、都会の女は、いかんです。男をすぐに、値踏みします。金持ちには媚を売って、貧乏人は鼻にも引っ掛けません。けしからんもんです、まったく。わたしもね、今は儲けていますから良いんですが。不景気風の吹いている折は、散々でした。見向きもしません。しかし小夜子は違いました」「へえへえ。違いますか、田舎の娘は」 涎をたらさんばかりに、身を乗り出してくる。「小夜子は違いました。どんなに金を見せても、初めはなびきませんでした。驚きましたよ、実際」
 気付くと、二重三重の人垣になっている。他の座から、若い男たちが来ている。都会生活のことを知りたがる者もいれば、都会の女を嫁にできないかと考える者もいた。「おやめなさい。生き馬の目を抜くところです、やめた方がいい。社会もそろそろ落ち着いてきました。ひと山当てるには、ちょっと遅いですよ。失礼ですが。大学出ならばいざ知らず、まともな教育を受けていない者では。戦後の混乱は、もう収まりましたからね。今から勉学に勤しむ気概を持っているなら、わたし、応援しますよ」「いやあ、今さらなあ。力仕事ならいざ知らず、勉強はもう……」「そうですかあ、都会の女はだめでかか」 落胆の色を見せながら、それぞれの座に戻った。
「ううむ……」 ひとり唸っている茂作に、繁蔵が声をかけてきた。「茂作、良かったぞ。大婆さまの許しも出たから、これからは本家にも遊びに来い。初江が気にしとるから」「いや、わしも色々とあって。まあしかし、寄るかもしれんが……」 気乗りのしない口調で答える茂作だが“村長選のことかい? まあ、応援はするがの”と、大婆の腹の内は分かっていた。
「武蔵と言う男、中々の男じゃないか。ツボを心得とる男だ」 ポンポンと肩を叩きながら、繁蔵が満足げにうなずく。しかし茂作には、武蔵のやることなすことが、腹立たしくてならない。茂作自身が小夜子に対してしてやりたかったことを、いま武蔵が為している。“わしだって先物がうまくいったならば、このくらいこと、いやもっと派手にやってやったわい。たまたまうまくいったのが、この男というだけじゃ” 恨めしげな視線を、武蔵に向ける茂作だった。

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