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敏洋’s 昭和の恋物語り

恨みます(八) 

2022年05月21日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



「もしもーし。あ、奥さんですかあ? ぼくです、堀井です。奥さんを一番愛してる、一樹でーす」「一樹くん? 何やってんのよ、あんたって子は! 今日は当番でしょうに、まったくもう。で、今どこなのお?」 甘ったるい声が、一樹の耳に入ってきた。「実はですねえ、ぼくの奥さーん。カモをですねえ、引っかけられそうなんです。ホントですよお。寝坊した言い訳じゃないですよお。証拠を聞かせますね」 水を運んできたウェイトレスに、携帯電話に出るよう手渡した。怪訝そうな顔をしつつも、手を合わせて哀願する一樹に苦笑いしつつ「もしもし」と、呼びかけた。
「あなた、誰? 誰なの!」「あ、あたしは、喫茶・ボヌールの者ですけど」「いいわ、代わって!」。キツイ言葉が飛んだ。「なんなの、この人」。一樹に頼まれて電話を替わっただけだというのに、と一樹をにらみつけた。「ごめんごめん。コーヒー、一つね」と、ウェイトレスのお尻を軽く叩いた。ウェイトレスは「キャッ!」と声を上げながら、満更でもなさそうに戻った。「はい、はいー!」「で、そのボヌールがなんなの?」「ぼくの加代さあん、怒った声もス・テ・キ」「いい加減にしなさい、一樹。仕事の電話なんでしょ!」
「うん。チカンの女を見つけたの。それで今、会社まで送ってきてね、これから張り込みます。で、出社がおくれまあす。ということでーす」 向かい側のビルを凝視しながら、一樹のテンションの上がった声が加代の耳に届いた。「ホントなのね。寝坊の言い訳じゃないわね! だったら、頑張んなさい。みんなには上手く言っといてあげる。しっかり営業するのよ」
「お待たせしました」「ありがとう! ぼくね、私立探偵なの。かっこいいでしょ? 向かいのビルからね、ターゲットが出てくるのを待つの、これから。よろしくね」 失笑するウェイトレスに対し、一樹が手を差し出した。「はあ、ごゆっくりどうぞ」 そのまま立ち去ろうとするウェイトレスに、「ええ! 握手してくんないのお?」と、甘ったるく迫った。おずおずと差し出された手を握った一樹は「うわあお! きれいな、小っちゃい手だ。コーヒーのお代わりは、君が持ってきてね。名前は、なんて言うの?」と、すぐには離さなかった。
======= いいか! 二時間でも三時間でも、ぜったいに離れるなよ。丸一日かかっても、いい。何としても、自宅を突き止めろ。“約束があったらどうする?”だとお。お前、今何人の客を持ってるんだよ。まあ、いい。万が一かぶった時には、俺がなんとかしてやる。“客を取られる?”だと。バカヤロー! そんなことしねぇよ。日にちをずらしてもらえるよう、話をつけてやるんだよ。そんな心配より、俺が言ったこと、分かってるんだろうなあ。=======

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