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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百十四) 

2022年03月31日 外部ブログ記事
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 繁蔵が役場を出ると、タクシー運転手が「あのお、すみませんが……」と、声をかけてきた。後ろからは村長の声が聞こえてきている。早くこの場を去りたい繁蔵としては迷惑な声かけだった。富雄に対して、お前が聞けとばかりに顎をしゃくり上げた。
「竹田茂作さんのお宅は、どちらになりますか?」。思いも寄らぬ名前が繁蔵の耳に入った。茂作じゃと? まさか、さっきのタクシーなのか? この村に、一日の内に二台のタクシーが来ることなど、確かにありえぬことではある。
運転手によると、小夜子は車酔いが収まらず、あっちだこっちだと指さすがその先に民家がないと嘆いた。少し離れた場所にある民家に声をかけるが、あいにくと誰もおらず確認がとれない。困りはてた運転手が「役場までもどっていいでしょうか」と、武蔵にお伺いをかけた。今日は終日貸し切りなので、賃走ではない。運転手も焦ることなく、運転できる。しかも走り出す前に、心付けをもらっている。こんな上客は滅多にいない、どころか初めてなのだ。
 小夜子が同乗しているのだ、茂作の家がわからぬはずがない。わしの聞き間違いかと思いはしたが、富雄が「茂作さんの家はですねえ……」と指さしている。 運転手が富雄に顔を向けたとき、繁蔵が声をあげた。「茂作の家かね? 茂作は、わしの弟じゃが。どちらさんですかな、お宅さんは」と、車の中をのぞきこんだ。「お、お前。小夜子じゃないか!」と、大仰に声を張りあげた。キョトンとする富男に向かって、「富男、小夜子が帰ってきたぞ!」と、役場内に聞こえるように更に大きな声をあげた。
車中に小夜子を見つけたことで、役場内は大騒ぎになった。「小夜子さん? ええぇ、女優さんみたいじゃない」「あの方が、ひょっとしてお婿さん?」蜂の巣を突付いたような騒ぎとなった。車を取り囲む職員たちに囲む職員たちに、村長の一喝が飛んだ。「こらあ! 席に戻らんか、ばか者!」
タクシーのドアが開き、武蔵が降り立った。と同時に、大きな拍手が起きた。「いゃあ、どうもどうも。お疲れさまでございます。さあさあ、中にどうぞ」大仰に腰を曲げ、もみ手を繰り返す村長の様に、職員の中から失笑がもれた。普段の後ろに倒れんばかりの踏ふぞり姿からは、およそ想像のできないことだ。
「これは、恐縮です。竹田茂作さまのお宅にお伺いしたいのですが、小夜子が車酔いしまして。で止むなく・・」。先を急ぐからここでと、立ち入ることを拒んだ。「それじゃわしが、案内しましょうかの」と、繁蔵が村長を押しのける。苦虫をかみつぶしたような表情で「そうですか。それじゃお帰りにでも、立ち寄っていただけますか」と、未練たらたらの表情を見せた。

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