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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百十三) 

2022年03月31日 外部ブログ記事
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 久しぶりに車中から見る田畑、そして車中に流れ込む雑多な匂い。懐かしさを感じる前に、嫌悪感を覚える小夜子だった。「どうした?」駅を降りてタクシーに乗り込んでから寡黙になってしまった。心なしか、顔も青ざめている。「酔ったのか?道が悪いからなぁ。運転手さん、停めてくれ。外で空気を吸わせよう」「いや!このまま行って!」。小夜子の金切り声が車中に響いた。「分かった、分かった。それじゃこのまま行こう。運転手さん、少し速度を落としてくれ。ゆっくり走ってくれ」これほどに取り乱す小夜子を武蔵は知らない。金切り声などはじめて聞く。今にも泣き出しそうな空の下、役場の前をタクシーがゆっくりと過ぎた。
「あっ! だんなさん、だんなさん」。大きく目を見開いた若い男が、茂作の兄である繁蔵の着物の袖を引っ張った。「なんじゃ、びっくりするじゃろうが。どうしたんじゃ、富雄」「あれ、あれ」と、二人を追い越したタクシーを指さしている。「タクシーが珍しいのか」。そうなじる繁蔵に「小夜子お嬢さまでした、絶対です」と、叫ぶように告げた。 「助役さん、おるかの?」と、慌てふためいて繁蔵が入ってきた。「はあ。おられますが、ご用件は?」。「おればいい。おい、いくぞ!」と、富雄を急き立てるようにして助役室に向かった。「助役さん!」「な、何です、いきなり。職員を通してもらわんと、まずいですがの」 うず高く積まれた書類の陰から顔を出して、助役苦言を呈した。
「そんなことはどうでもいい! びっくりじゃ、びっくりじゃ!」「どうでもいい、ってそうはいきませんて。ここは役場ですから、公私のけじめはキチンとしてもらわんと」 なおもこだわる助役に、繁蔵の怒りが爆発した。「ああ、もう! 一大事ぞ、小夜子が帰ってきたんだよ。今し方、この富男が見たんじゃ」
 富男が「はい、はい」と大きく何度も頷いた。「間違いないです、小夜子お嬢さまでした。見間違うことなんて、ありませんて。あれは間違いなく小夜子お嬢さまです」 勝ち誇ったように言う富雄の頭を軽くこずきながら、「この富男のやつは、小夜子にベタ惚れで。小夜子の頼み、いやあれは命令に近かったですの。わしに何度叱られても、小夜子の頼まれごとをやっておったから」と、繁蔵がつづけた。
 頭をこずかれながらも、にやけた表情がまるで消えない。小夜子を見ることができたということだけで、一年分の喜びを得られたような気がしている富男だった。「こりゃ、いよいよですかの。そうなりゃ、村としても知らん振りはできませんな。わしはもちろんのこと、村長にも出席せにゃならんでしょうな」
「いやいや、そこまでは。佐伯のご本家さんの祝言ならいざ知らず」「なにを言いなさる。あの寄付金がありますぞ。この村はじまって以来のことですからの。どうです? ここだけの話ですが、村長に名乗りを上げられたら。いまの村長も長いですから、そろそろ……」
「まあ、その話は後日ということで。今日は小夜子ですわ。茂作の所に挨拶でしょうな。その後、本家のうちにも寄ると思いますでの。助役さん、あんたが役場を代表しての。分かるじゃろ?」
 ひそひそと密談を交わした後に、意気揚揚と引き上げた。村長のかける声に気付かぬふりをして、そそくさと引き上げた。“ふん。あんな男なんぞ、呼んでなるものか”

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