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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百九十七) 

2022年02月23日 外部ブログ記事
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 時折ふとした折に襲ってくる恐怖感、そして急き立てられるような焦燥感。不安で不安でたまらなくなってしまう。アナスターシアという存在の大きさを、いまさらながら感じる小夜子だ。「帰ったぞ!」 このひと言が、どれ程に小夜子を和ませることか、安心感を与えることか。しかしそれが腹立だしい小夜子でもある。
「お帰りなさーい!」 二階にいても居間にいても台所にいても、武蔵の声に吸いこまれるように飛んでむかえに出る小夜子。そのくせ武蔵の顔を見たとたんに、不機嫌な顔を見せる。「今日は何をしたんだ?」。膨れっつらの小夜子を、腕に抱きこんで上がる武蔵。
「いっぱい、したわよ。お洗濯でしょ、それからお部屋のおそうじ。お台所のふきそうじもしたんだから。階段もふきそうじしようかと思ったけど、ご用聞きが来ちゃったから。明日、やるのよ」 顔のほころびを感じつつも、険のある声で返事をする。「そうか、そうか。そんなに頑張ってくれたのか」「なによ、不足だって言うの!」 着替えの手伝いをしながらも、まだ頬をふくらませている。「なあ、小夜子。お手伝いを入れたらどうだ? 呼びもどすか、千勢を。学校に通ってないだろう、最近。うん、どうだ?」 英会話に対する思いが、一気に消え失せている小夜子だ。
 アナスターシアとの旅が目的の、そのための英会話の勉強だった。そのアナスターシアは、もういない。目的がなくなってしまっては、情熱も消えうせてしまう。中途になっていることに対し、じくじたる思いを感じてはいる。通わねば、とも思いはする。アナスターシアに対する衷心かとして通わねばと思いはしている。しかし足が動かない。いや、こころが動かない小夜子だ。「お洗濯しなくちゃ」。「お掃除がすんでない」。「ご用聞きがくるわ」。何やかやと言い訳を見つけては、出かけることをしない。
 そしていま、町子が退院してからというもの、一度たりと出かけていない。もう二十日ほどが経っている。武蔵の思いはわかっている。閉じこもり気味の小夜子を、明るい太陽の下にひっぱりだしたいのだ、それはわかっている。アナスターシアの死を引きずってはいないかと気にかけている武蔵のこころはわかっている。しかしそのこころづかいが、小夜子にアナスターシアを思い出させてしまうのだ。「なによ、それ。あたしのおさんどんじゃ、だめだって言うの! 一生懸命やってるのに! いいわ、もうやらない! 千勢でも誰でも、やらせたらいいわ」
 突然に怒り出し、そして最後は泣きくずれてしまった。「悪かった、悪かった。な、小夜子。小夜子が一番だぞ。俺の宝物は小夜子だぞ。小夜子は、おれの大事な大事なおひめさまだ」 泣きじゃくる小夜子をひざの上であやす武蔵。一日の疲れが、一気に吹き飛んでいく。甘くかおる小夜子の髪をたのしむ武蔵だ。妖しくひかる黒髪が、武蔵のこころに安らぎをあたえてくれる。 しばしの後に、「ごはん、ごはん」と、勢い良く立ち上がる小夜子。「まだいいじゃないか、小夜子」と、未練を残す武蔵。日々繰り返される、武蔵と小夜子の日常だ。

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