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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜(百三十五) 

2021年09月15日 外部ブログ記事
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「誠に申し訳ありません。教育がなっておりませんで。森田くん。頼むよ、ほんとに。
御手洗さまとのご縁が切れたら、僕はクビですよ。
今、ご婚礼時の調度品のお約束を頂いたところなんだから」
 怪訝な顔を見せる小夜子に対し、小声で耳元に囁いた。
「さすがに御手洗社長は、お目が高い。小夜子さまなら、いいご伴侶になられますです」
 小夜子は武蔵から、何も言われていない。
まさか今日の外食が、このデパート目当てだとは、思いも寄らぬことだ。
そして今も、疑いはない。
あくまで、いつもの小夜子のご機嫌取りだと思っている。しかし高井の言葉に、悪い気はしない。
“まったくもう! そんなことを言いふらしてるのかしら? あとで、とっちめなくっちゃ”と、軽く受け止めていた。

「小夜子さま。本日はどのようなお靴をお考えでしょうか?」
 森田の慇懃な態度が、小夜子には面映ゆい。
「その、『さま』というの、止めてくださる?」
「とんでもございません、大切なお客さまでございますから」
「だから、『さま』じゃなくて『さん』で良いんです」
「申し訳ございませんが、やはり『さま』と呼ばせて頂きます」
 何度か押し問答を繰り返したが、小夜子の希望が通るはずもない。
結局森田の見立てで、二足のハイヒールを購入した。
さすがに洗練された最新モードの靴だ。が故に、今の服では、靴が浮いてしまう。

 森田の勧めで、洋服も買うことになった。
「お羨しいですわ、ほんとに。大事にされていらっしゃって」
「ええ、まあ」
 小夜子のほほが、ほんのり桜色に変わった。
百貨店では、武蔵とのことが既成事実となってしまっている。
“もう、失礼しちゃうわ。みんなして、あたしをお嫁さんだって決め付けて!”と思いつつも、悪い気がしない小夜子だった。
「お羨しいですわ」と言う森田の言葉が小夜子のプライドをくすぐる。
“良くはしてくれるのよね。正三さんだと、ここまではねえ”。
己の価値を男に貢がせられる女で見いだす癖が抜けない小夜子だ。

 銀座のランプ亭で、小夜子が武蔵に問い質す。
「お父さん。聞きたいことがあるの!」
「なんだ? そんな恐い顔して、どうした?」
「あたしのこと、どう説明したの? 高井さんの話だと、あたしお父さんのお嫁さんになるみたいだけど」
「なんだ、そのことか。高井が勝手に決め付けたんだ。
『そろそろ身を固められる頃じゃありませんか?』なんて言うから、そうだなって答えたんだ」
「それがあたしって、わけ?」
「うん、そう言うことだな。高井が言うには、小夜子は良いお嫁さんになるってことだ。
で、『その節は、当デパートをご利用下さい』と言うわけだ」

 良いお嫁さんと言われて悪い気はしない。
「お父さんも、そう思ってるの?」
 つい聞いてしまった。
「もちろんだ! 小夜子以外には、俺は考えていないぞ。
どうだ、嫁さんになっても良い気になったか? 大事にするぞ。
お爺さんだって、大事にしてやる。茂作さんは、何か困ってることはないか。
おれが解決してやるぞ」
 茂作の抱える借財のことを口にしょうかとも考えたが、小夜子が嫌がるかもしれないと、止めた。
武蔵に対する気持ちの変化には気付いてはいたが、急いては事をし損じると、早る心にブレーキをかけた。

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