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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜(百三十) 

2021年09月02日 外部ブログ記事
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 久しぶりに自宅でくつろぐ武蔵に対し、小夜子はあれこれと世話を焼いている。
鼻歌混じりで洗濯物を干した。出涸らしのお茶っ葉を畳の上に撒いての掃き掃除も、今日は楽しいものに感じられる。
「何だあ、小夜子。えらくご機嫌じゃないか? 
何か、良い事でもあったのか。英語学校の先生にでも、誉められたか」
「別に、何もないよ。お天気が良いから、気分が良いの」

 武蔵に声を掛けられて、高揚している気持ちに気付いた小夜子だった。
“別に、武蔵だからじゃないわ。そうよ、誰でもいいのよ。一人ぼっちが、つまんないのよ”
 武蔵が居てくれるからだとは、思いたくなかった。
あくまでも武蔵は足長おじさんであり、小夜子の思い人は正三でなくてはならないのだ。
葉書きの一枚も送らない不実な男であっても、小夜子にとっては唯一人の男なのだ。
そうでなくてはいけない、と言い聞かせていた。

“お千勢さんに、もう少し教えてもらえば良かった。こんなんじゃ、アーシア、食べてくれない”
 味付けがうまくいかないことに、苛立ちを感じ始めている。
出汁が薄いからと継ぎ足せば濃すぎてしまう。
少し薄めたつもりの水が、今度は多過ぎる。
また出汁を少し継ぎ足しせねばと少し増やしてみるが、まだ薄い。
で、もう少しと足せば、やはりのことに濃くなってしまう。
その繰り返しが幾度となく続き、二人前の汁が三人いやいや五人分にも増えている。

煮物を作れば、味の薄い濃いが毎回違う。鍋底のこげで、幾つの鍋を取り替えたことか。
さればと魚を焼きにかかれば、真っ黒に。それならと控え目にすると、生焼け状態。
立ち込める煙に、何度か涙した。
それでも武蔵は、
「どうせ、魚の皮は食べないんだ。真っ黒で良いじゃないか。
小夜子の愛情を感じるぞ」と、パクついてくれる。

「どうだ、今夜は久しぶりに、そうだな、ビフテキでも食べるか? 客との食事は、あっさりだからな。
コッテリしたものが、食べたくなった。デザートには小夜子を食べたいがな」
いつもならすぐに「いや!そんなこと言うなら、行かない!」と反駁する小夜子が、今日に限ってはおとなしい。
「どうした、熱でもあるか?」
 小夜子のおでこに手を当てみるが、さほどのこともない。

「うわあぁぁ!」
 小夜子が突然、武蔵の胸に泣き崩れた。
「ど、どうした? 気に障ること、何か言ったか? したか?」
 背中をさすりながら、小夜子の落ち着きを待つ武蔵だ。
「小夜子が来てから、生活に張りができたよ。家に帰るのが楽しくなった」
 あぐら座りの膝の中に小夜子を座らせて、優しく声をかけた。

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