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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百二十一) 

2021年08月12日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



「分かった、分かったよ。これから女性の社会進出は、当たり前のことになるさ。
その先進グループに入りたいんだな、小夜子は。
しかし一人暮らしは、なあ。どうだろうなあ。
そうか思い出したぞ。『愛人になれ!』と、口説いたんだ。
だけど小夜子は、即座に『イヤッ!』と言ったんだ」
「それはそうよ。あたしには好きな人がいるんだから、愛人はだめ」
“奥さんなら、いいかも”

 突然、思いも寄らぬ言葉が浮かんだ。
危うく、口の端に乗せそうになった。
“な、なに、考えるの、あたしったら。
でもどうせ、間に受けはしないでしょうけど”。
ぽっと、頬を赤らめた小夜子だ。

 武蔵は、物怖じせずに答える小夜子が可愛くて仕方がない。
軽くお触りをしようとすると、即座に“ピシャッ!”と、手が飛んでくる。
そんな仕種がまた、武蔵には可愛い。
「そうだ、そうだ。段々、思い出してきた。一人暮らしの時には援助してやると、言ったんだな。そのことか?」
「そう! そうなの。だからね、おねが〜い。愛人はだめだけど、月に一度か二度位こうしてお酌してあげるから」
「ハハハ。愛人のことは、冗談さ。お前みたいな、ねんねは相手にせん。ションベン臭い未通女なんぞ、女じゃないさ」
「社長! ねんね、ねんねって、言わないで! もう大人なんだから」

 頬を膨らませながら、小夜子は武蔵のお猪口に酒を注いだ。
「どうだ! いっそ、俺の家に来んか? 愛人になれ、とは言わん。
メイドとしてなら、良いだろうが。なあに、たまに掃除をしてくれれば良いさ。
しっかり勉強しろ。で、俺の会社に入ればいい。通訳として、仕事をしてくれんか」

 小夜子の酌を制して、武蔵が言った。そんな武蔵の話に、小夜子の心が動いた。
武蔵との同居とは、考えもしていなかった小夜子だ。
「メイドさん? うーん、どうかなあ。でも社長、本気なの? 通訳として会社に入れてくれるの? 
愛人は、ほんとにダメだよ。だけど、正三さんが、どう思うかな」
「彼には、内緒にしておけばいいじゃないか。
何なら親戚とでも、しておくか? 彼を家に呼ぶ時には、俺は外泊してもいいぞ!」

「ええっ!そんなこと、しないよ。社長の助平!」
「何が助平なものか。男と女が惚れ合ってだな、お互いを求めるのは、自然なことじゃないか。
どうだ、もう接吻ぐらいはしたのか? おっ、頬を赤らめたところを見ると、したな? 
どうだった。上手だったか、彼は。
俺は、上手いぞ。何せ、アメリカさん相手の本場仕込みだからな。
伝授してやろうか、小夜子。彼が悦ぶような、あまーい接吻を」
 酔いの勢いも手伝って、武蔵は小夜子をからかい続けた。

 耳たぶまで真っ赤にした小夜子は、思わず俯いた。
武蔵の、冗談とも本気とも分からぬ言葉に、胸が高ぶった。
あの日の、正三との初接吻を思い出した。
軽く触れただけのそれだったが、胸がキュン! と痛んだ。
“はしたない女だと、思われたかしら? あれから、正三さんとは逢っていなんだわ”。
俯いたままひと言も声を発しない小夜子を、武蔵は穏やかな気持ちで見ていた。
いつもの武蔵ならば、このまま一気に押し倒してしまうのだが、どうしても小夜子に対してはそれが出来なかった。

“本気で惚れたみたいだな、俺も。それにしても、なんでこんな小娘に”
 こんな思いは、武蔵にしても初めての経験だった。
小夜子の笑顔が、たまらなく可愛く感じられた。日一日と洗練されていく小夜子を見ることが、武蔵にとって無上の悦びになっていた。
しかし不思議なことに、一度として小夜子を抱きたいと思うことがなかった。
成熟した女としての魅力が、未だ醸し出されていないのも一因ではあった。
少女としか、武蔵には見えなかった。“投資のようなものさ”。
いつか花開くであろう日を、武蔵は楽しみにしていた。

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