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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (百五) 

2021年06月16日 外部ブログ記事
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「ああ、いいとも。但し、不足分は梅子の奢りにしてくれよ」。
武蔵は無造作に懐から札入れを取り出すと、そのまま梅子に渡した。
分厚い札入れを手にした梅子は、「ああ、いいともさ。月末にでも、集金に行くから。で、幾ら用意してきた?」と、中を確認した。
「ほお、社長! 豪気だねえ、こりゃ。たっぷり入ってるじゃないか。みんな、今夜は騒げるよ!」

 武蔵と梅子の掛け合い漫才をニヤつきながら見ていた五平に、「やっぱり社長だよ。しみったれ五平とはまるで違うよ」と、梅子が五平をつつく。「
いいんだよ、五平はそれで。しみったれだから、俺が目立つんだよ。
だからモテる男になれるんだよ」。
武蔵の豪放な笑い声に呼応するように、あっという間に十数人の女給たちが集まった。

店内を見渡してみると、確かにまばらな客だった。
中央のホールでは、数人がダンスをしているだけだった。良く見ると、女給だけのダンス姿も見られる。
「なんだ、ありゃ……」。往時を知る武蔵にとって、信じられない光景だった。
「仕方ないよ、社長。みんな、暇なんだから。それに、淋しいだろうが、ホールがガランとしてちゃ。
だから女ふたりででも踊ってるのさ。社長、久しぶりに踊るかい?」

 梅子が、肉付きの良い女給を指差した。
「珠子、と言うんだよ。この間入った娘でね、まだ未通娘だ。社長はグラマーな娘が好きだろう?」
「未通娘だと? この女が処女だとでも言うのか。
梅子、お前が嘘を吐くなんて。どうかしてるぞ、今夜は」
「今夜の珠子は、まだ処女だよ。だからまだ未通娘なんだよ」と、屁理屈で笑わせる梅子だった。 

 武蔵がホールに立つと同時に、音楽がマンボに変わった。
戸惑う武蔵を尻目に、珠子がリズム良く踊り始めた。
少しの間立ち竦んでいた武蔵だったが、見様見真似で踊りだした。
そのぎこちない動きに、そこかしこから笑いが起きた。

 あっという間に、手持ち無沙汰だった女給たちがホールになだれ込み、さながらダンス大会の様相を見せた。
そんな中、客席ボックスの間で小刻みにリズムを取っている娘が居た。
タバコの入った籠を大事そうに抱えている娘に、武蔵の視線はくぎ付けになった。
未だ少女の面影を宿しているその娘は、武蔵の好みとは無縁だった。
スレンダーな体付きで、骨張って感じられた。しかし涼しげな目が、武蔵を捉えた。

 汗だくになりながら戻ってきた武蔵に、五平が声をかけてきた。
「どうです、社長。いい娘でしょ? あたしが話してた娘ですよ」
「どの娘のことだ?」
 武蔵が、とぼけて聞き返した。
「ほら、あのタバコ売りです。今、呼びますから」と、手招きした。
「ありがとうございます、おタバコですね」

 手持ち無沙汰にしていた、タバコ売りの娘がやってきた。
五平は、大きく頷きながら、「この間から話してる、お方だよ」と、武蔵の傍に立たせた。
「名前は、何て言うの?」
「はい、小夜子と言います」
 運命的な出逢いというわけにはいかない。
 劇的な出逢いでもない。
しかし武蔵の気持ちをざわつかせる、小夜子との出逢いだった。


*本日、72歳の誕生日を迎えました。
 これといった感慨は感じませんが、「もう……」いや「まだまだ……」。
 そんなことばが混ざり合う、朝です。
 人間の寿命というのは、生命学的にいうと、120歳らしいですね。
 還暦で、一巡。ですので、12歳、というわけですか。
 まだまだ、これから勉強しなくちゃいかんのですよ。

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