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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (百六) 

2021年06月17日 外部ブログ記事
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 小夜子は、武蔵に対して良い感じを持たなかった。
値踏みをするように小夜子を見つめる武蔵の目に、何か卑野なものを感じた。
細面で端正な顔付きをしているが、人を小馬鹿にするような目つきが嫌悪感を抱かせた。
「小夜子ちゃん、かあ。
歳は、幾つかな? 英会話の勉強をしてるんだって? どう、少しは話せるようになったの?」

 矢継ぎ早の質問に対し、小夜子は愛想笑いをかかすことなく答えた。
以前の小夜子には考えられないことだが、茂作からの仕送りなど考えられぬ現状では、とにかく生活費と英会話学校の学費を己の力で稼がねばならない。
突っ慳貪な態度を取っていては、チップはおろか、即解雇になりかねない。
東京に行きさえすればなんとかなるわと軽く考えていた己が、いまは恥じられてならない。

「年齢は、十八です。会話が通じるかどうかは、アメリカ人との会話がないので、正直のところは分かりません。
一応、学校での会話は成り立っていますけれど。
早口で会話されると、未だ聞き取れないことがあります」
 うんうんと頷きながらも、武蔵の視線は小夜子の全身を、舐めるように見ていた。
“なんて、失礼なの! 目線を合わせての会話が、常識でしょうに”
 次第に小夜子の表情に険が現れた。必死に嫌悪感を隠そうとするが、どうしても出てしまう。

「こりゃ、申し訳ない。初対面の女性に対する態度じゃなかったな。
こんなキャバレーに、君みたいな若い女性がいることが、珍しくてね。
ごめん、ごめん。ここにお座んなさい。支配人には、ぼくから言っておくから」
 そう言いながら、武蔵が五平に目配せをした。五平は梅子と共に、席を立った。

「でも……」と、顔を曇らせながら、小夜子は席に着くことをためらった。
武蔵との接触が、この先の己に災いを及ぼさせるように感じられた。
殆ど直感のようなもので、漠然とした不安感を感じた。
救いを求めようとする小夜子に対し「お座わんなさい」とばかりに、梅子が頷いた。
「いいから、いいから。ぼくと付き合って、損はない。別に、取って喰おうと言う訳じゃないんだから」

 武蔵は席を立って、小夜子を無理やりボックスの中ほどに座らせた。
 珠子と武蔵に挟まれる形になってしまった小夜子は、女給たちの鋭い視線を一身に浴びた。
「こら、こら! そんなに睨むんじゃないぞ。怖がってるじゃないか」
 武蔵の言葉に、女給たちは肩をすぼめた。
「わたし、タバコ売りの仕事がありますから」
「買うよ、全部。それだったら、良いだろう?」

 懐から財布を取り出そうとした武蔵だったが、
「しまった! 梅子に預けてしまったんだ。ま、いいさ。戻ってきてから、払うことにするさ。
で? 英会話を勉強して、どんな仕事をするつもりなの」と、今度は小夜子の目をしっかりと捉えてきた。
その射るような目に、小夜子は少したじろいだ。
「仕事って……そうじゃなくて、アーシアと……」

 小声で呟くと、小夜子は俯いた。武蔵の視線に、耐えられなくなってしまった。

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