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敏洋’s 昭和の恋物語り
水たまりの中の青空 (去れば、去るとき、:一)
2021年06月01日
テーマ:テーマ無し
うまくまとめていただけて、ありがとう存じます。ただ一点、わたくしに付け加えさせていただき存じます。
他でもございません、里江さんのことでございます。
あの方にだけは、わたくしが明水館の若女将であることをお話ししました。
いえいえ、三水閣でではございません。
如何に無鉄砲なわたくしでも、あのようなところでは詳しい素性は明かしませんです。
里江さんとの秘密の連絡手段を整えた後に、わたくし逃げ出しました。
といいますのも、その後のことを知りたかったのでございます。
あくまでも追いかけてくるのか、それとも諦めてくれるのか、それによりまして対策といいますか対抗手段をも考えねばなりませんので。
ええええ、もう戦闘態勢に入っております。
例のK大先生のご紹介を受けました。
さすがに垢を落としてからでなければ、明水館に戻ることは出来ません。
無論、大女将には詳しい事情を包み隠さずに、書状にしたためております。
深い反省の元、再度修行を致しますので、1年ほどの猶予をいただきたいと。
一つの賭けでございました。「今さら!」。お叱りを受けることを覚悟してのことでございます。
もう戻れぬかも、そうも思いました。もうすでにどこぞの旅館から若女将をすでにお呼びかもしれません。
その折にはこのままどこぞの地で仲居として終えようかと思いました。
その方が気楽では、とも思いました。女将ともなると、気苦労の多い毎日を送らねばなりません。
正直を申しますと、三水閣での毎日も、それなりに愉しんでいたような気がいたします。
誰の目を気にすることなく、主や女将、そして仲居頭の里江さんからのお小言など馬耳東風とばかりに聞き流せばよろしいのでございますから。
お客から嫌われたとしましても、どうでもいいことなのでございます。
そんな思いに駆られたことも、多々ございました。
ですが、どうしても納得が出来ないのでございます。確かに、わたくしの気の迷いからのことでございます。
三郎などという遊び人ごときに騙されたわたくしが悪いのでございます。
ですが、いえですから、やるせないのでございます。このままでは終われない、終わってなるものか!
「女性を、おっ母さんを大事にしない国は滅びる」。そう仰るK先生にお頼みしたのでございます。
「復讐させてください、男どもに」。「元の旅館に戻ります。そのために、お力をお貸しください」。
そのためには身体を投げ出しても構わない、そう思ったのでございます。
ですがK先生のお言葉は意外なものでした。
「復讐のためというなら、協力はできん。女将に戻りたいというなら協力してやろう」。
「ここの主に話を付けてやろう」。そう仰ってくださいました。
で、三水閣から出ることに関してではなく、その後のどこぞの老舗旅館での修行に力をお貸しいただいたのです。
三水閣から堂々と出たのでは、わたくしにとっての惨めな思いを断ち切ってしまうことになります。
それよりも、惨めな思いを抱えたまま逃げ出したかったのでございます。
お分かり頂けませんでしょうね、この心もちは。
よろしいのですよ、お分かりにならなくても。女の意地のようなものですから。
実は、これといった殿方からはお名刺なり連絡先なりを頂きました。
わたくしからの頼み事に、何も聞かずにお渡しくださる、
そして教えてくださる殿方ばかりではございませんでしたが、
わたくしの目を見て頷いてくださる殿方だけに「ここを出ます」とだけお伝えしました。
そうそう、里江さんのことでございます。
わたくしが三水館を逃げ出してからひと月ほど後に、出られたそうでございます。
どうやらわたくしのために残ってくださったようで。
後始末のようなことをしていただいてから、暇を頂戴されたらしいのです。
あのお方にはもう借金はなく、いつでも里江さんが希望されるならばということだったのです。
「どこといって行くところはないし、ここは気楽だからねえ」と仰るのですが、
「あんたに会うためだったかもね、運命だったかもよ」と、冗談ともとれる言葉をいただきました。
三水閣にしても、実のところは渡りに船だったようで、話がすぐにまとまったようです。
なにかと異を唱えられていた里江さんには手を焼いていたというのが本当のところらしいです。
異を唱えられていた里江さんには手を焼いていたというのが本当のところらしいです。
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