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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (九十五) 

2021年04月08日 外部ブログ記事
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 事前に連絡を入れていたのか、それとも察しの良い梅子ゆえなのか、しきりに三保子をけしかけた。
「おやんなさいよ、三保ちゃん。楽なものよ、そんなの。
それに、短い期間だし。後々のことも、面倒見てくれるしさ。ひと財産できるわよ。
アメさん相手だと言っても、同じ人間だしさ。
それに、レディファーストとか言って、すごく大事にしてくれるわよ」

「ええ……でも……あたしなんかで……」。
逡巡する素振りを見せつつも、三保子の気持ちは既に固まりつつあった。
田舎の両親に対して、今以上の仕送りが出来そうだ、と考えていた。
三保子の実家は、九州は佐賀県の片田舎だった。
少しばかりの田畑を耕して、小学五年生を筆頭に三人の弟、妹が居た。
他に兄と弟の二人が居たのだが、どちらも戦死していた。
必然、三保子からの仕送りを頼りにせざるを得ない状況にあった。

 東京で働いているとはいえ、小さな会社の事務員では、月給もたかがしれている。
毎月のように“カネオクレ”の電報が届くのだが、どんなに食費を切り詰めても実家が満足のいく額にはほど遠かった
。“夜のバイトを探さなくちゃ”。そんな思いに駆られていた折の、五平からの誘いの言葉だった。
胡散臭さを感じる三保子だったが、紳士然とした武蔵に安心感を覚える三保子だった。
その意味では、武蔵を引っ張り出した五平の思惑が当たった。

 五平の言を信じれば、今の月給の三倍近い収入になる。
然も、食住の費用は一切かからない。衣類にしても、プレゼントされることもあると言う。
唯一不安と言えば言葉なのだが、追々覚えれば良いと告げられた。
周りには先達の女性が居るから、彼女たちに教えてもらえるとも。

 最後に、五平が念を押した。
「永山さん」。親しげに三保子さんと呼んでいた五平が、改まった口調で告げた。
「念を押しますが、夜の生活を拒否することはできません。
が、心配は要りません。彼らは、非常に紳士的です。
決して、無理強いはしません。体調が優れない時や、気分が乗らない時には、寛容な態度で接してくれます。
しかし度重なるようですと、解雇せざるを得ません」

 不安げな表情を見せる三保子に対し、五平はにこやかに付け加えた。
「なあに、案ずるより有無が易し、です。
何も心配することはありません。少しの間、社長とお付き合いしてください。
色々と、教授します。せいぜい美味しい物を、ご馳走してもらいなさい。
洋食に慣れる必要もありますからね」

突然の五平の言葉だったが、武蔵は
「任せなさい、わたしに」と、軽く三保子の肩を叩いた。
「わかりました、お世話になります」。意を決したように、三保子は深々と頭を下げた。
 ひと月の間に、武蔵は三保子との逢瀬を幾度となく重ねた。
「出来るだけ、贅沢の味を覚えさせてくださいよ」という五平の進言もあり、武蔵は一介の女子事務員では味わえない世界を教え込んだ。
嬌声を上げる三保子を見る度、武蔵は満足感に浸った。
一流ホテルでの食事やら、ナイトクラブでのダンスやら、三保子にとっては別世界のことだった。
二度目の逢瀬の折に体を許した三保子は、次第に武蔵の愛人になりたいと思い始めた。

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