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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (九十三) 

2021年04月06日 外部ブログ記事
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 年が明けて、限られていた好景気の波が経済全体に行き渡り始めた。
戦争遂行のための兵器生産による技術が民生品にも使用された。
三種の神器と称された白黒テレビ、電気洗濯機、電気冷蔵庫が売れ始めていた。
冗談で「三種の神器を、内でも扱うか」と武蔵が酒の席で、頻繁に口にし始めた。
五平がその気になりかけると、
「だめだ、だめだ。小売りは効率が悪い。あのあたりの卸は製造メーカーに縛られている。雑貨辺りが分相応ってところだろう」
と、はしごを外してしまうのが常だった。
武蔵の頭の中に「メーカーと対等に渡り合えるのは、まだ先の話だ」という、忸怩たる思いが渦巻いているのは、五平にも分かっていた。

「それはそうと、社長。オンリーを探さなくちゃいかんのですわ。
最近、アメさんの要求が厳しいんですわ。
まあ英会話のできる女は増えてはきたんですが、中々におメガネに叶うような女が見つからんのですわ」
 嘆息交じりに、五平が窮状を訴えた。
「五平の言葉とは、思えんな。
そんなに、難しくなってきたのか? と言うより、探すポイントを間違えてるんじゃないのか。
英会話ばかりに、こだわってないだろうな。
言葉なんて、その気になれば何とかなるもんだろうが」

「まあ、そりゃそうなんですが。どうもね、最近の女ときたら。
あたしが声をかけると、うさん臭い顔をするんですわ。
社長、ひとつご足労願えませんか」
「分かった、分かった。そうか、敬遠されるか。
そうだな、久しぶりに銀座の空気でも吸うかな?」

 夕闇の訪れた銀座は、きらびやかなネオンに彩られていた。
復興の速度は目を見張るものがあり、日本人の底力をまざまざと見せ付けている。
朝鮮特需という神風が吹いたせいもあろうが、やはりのことに日本人特有の勤勉さが際立つ。
「社長、見つけましたよ。あそこの店で、洋服を見てる女が居るでしょう。
ちょっと、声をかけてきます。あたしが社長の方を見たら、その帽子をちょっと上げてみてください」
 五平に「是非に!」と言われ、ダブルのスーツを着込みソフト帽を被ってきた武蔵だった。
普段ならば開襟シャツに麻の背広姿なのだが、今夜ばかりはそうもいかない。
小なりと言えども、一国一城の主としての威厳を醸し出さねばならない。

 五平が目を付けた女性は、当世としてはやや大柄だ。
後ろ姿での判断では、肉付きは良さそうだ。武蔵には太めと感じるが、アメリカ将校はそれが良いらしい。
所在なく立ち竦んでいた武蔵に、五平が手を上げてきた。
武蔵は言われたとおりに、帽子を少し上げた。すると、五平が手招きする。
“なんだ、俺が行くのか”。少し不満に思えたが、これも仕事の内だと、ゆっくり歩いた。

「社長! 永山三保子さんです」
「永山です」
 少し甲高い声だが、多分緊張のせいだろう。
武蔵は、威厳を保ちながら軽く会釈をした。
心なしか、三保子の顔が赤らんでいる。
どう話を持ちかけたのか判然としない武蔵は、チラリと五平を見た。

「どうです、社長。この方なら、メガネに叶うと思うんですがねえ。
食事でもしながら、詳しい話をしましょう」
 誰のメガネに叶うのか、武蔵には分からない。
しかし、若い女性と食事を共にするのは、武蔵ならずとも嬉しいものだ。

「申し訳ありません。わたし、夕食は済ませています」と、にべもない返事を繰り返した。
「そうですか。それじゃ、銀座に行きましょう。
実のところ、その途中なんですよ。
お酒なんか、どうです? 見たところ、いける口だと思いますが。
若い女性とお酒を飲めるなんて、滅多にないことですから。
社長! 社長からも、お願いしてくださいよ」
 脈ありと見ている五平は、有無を言わさずといった風情だった。

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