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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (六十七) 

2021年02月03日 外部ブログ記事
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 あの日以来、小夜子と茂作に会話のない日々が続いていた。
停学中の小夜子は、日がな一日、本を読んでいる。
前田の勧めで買い求めた、平塚らいてふ発刊の文芸誌〔青鞜〕を読み耽った。
『原始女性は太陽だった。』の一節が気に入った小夜子だった。
以来、ことあるごとに会話の中に飛び出してくる。
「いい? だからね、女性はもっと自信を持つべきなの。
女性なくして、社会は成り立たないのよ。
原始時代からね、女性は太陽だったの」

 正三の妹幸恵が、停学の間中小夜子の元に日参した。
その日の学校内での出来事を、面白おかしく報告してくれる。
その度に小夜子が、お腹を抱えて笑い転げる。
日々笑うことのなかった小夜子に、次第に幸恵を待ちわびる気持ちが芽生えた。

幸恵にしても、兄である正三の気持ちがどれほどに強固な物であるかを知るに従って、次第に気持ちが揺らぎ始めていた。
ロミオとジュリェトの小説で知った、男女間のこころの繋がりの美しさを知ることによって、この年代特有の恋愛至上主義的感覚が湧いてきた。
そして間近で接する小夜子の、自立心に富んだ精神性に取り込まれていった。
「ああ、笑い死にそうだわ。ほんと、面白い人ね」
「そうですか? 同級生は、誰も笑ってくれませんよ」
「あなたみたいな人を妹さんに持ってる正三さんが、羨しいわ 」

「ほんとですか? だったら、ほんとに妹にして下さい。正三兄さんのお嫁さんになって下さい」
 真剣なまなざしで言い寄る幸恵だった。
正三の気気性をよく知る幸恵だ。正三兄さん自ら告白するなど決してあり得ない、と考える幸恵だ。
あたしがひと肌脱がなきゃ、とも思ってしまう。
そして今、告白の代弁をした、筈だった。
“ふふ。あたしが粉かけてること、知ったらどんな顔するかしら?”
「でも、正三さんが何て思ってらっしゃるか、ねえ?」

「そんなの、大丈夫です。もう、正三兄さんったら! 
あれ以来、何かと言うと、小夜子さんのことばっかりで。
『ほんと、綺麗だった。小夜子さんは観音さまだ、天女さまだ』って、毎日あたしに言うんです。
そして最後には決まって『親しく口をきかせて頂けるなんて、お前ほんとに幸せ者だよ』。
もう、お念仏なんです」
「それがほんとなら、嬉しいことね」
「あの、ちょっと聞いていいですか? 小夜子さま、最近、何だか雰囲気が違うんですけど」

「 あら、そお? 変わったかしらね」
「はい、ずいぶんと」
「どんな風にかしら? 」
「こんな言い方失礼ですけれど、お優しくなられた、と言うか」
「ふふふ、やっぱりそう感じるのね。わたくし自身が一番驚いてるの。
多分、アーシアのおかげね。背伸びすることはない、ってこと。
幸恵さんには、分からないでしょうね」
「実は兄に聞いてみたんです。そしたら、『キレイだからさ』って、笑うんです。
何かあったの? って聞いても、ニヤッと笑うだけで」
「正三さんって、お固いのね。幸恵さんにも話してないなんて」

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