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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (三十一) 

2020年11月11日 外部ブログ記事
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「忙しいところ、すみません」
 何度も頭を下げつつ、駆け寄った。
「どうしました?」と、にこやかに応対する老駅員に、泣きそうな顔つきで尋ねた。
「生バンド演奏を聞かせてくれる場所、ありませんか?」
「バンド演奏、ですか。さあて、どうなんでしょうか。
電話帳には、載っていないかなあ。
劇場のようなところから聞こえてきた気がしますが。
ちょっとねえ…」
 と、首をかしげるだけで終わってしまった。
「そうですか、そうですよね。ありがとうございました、調べてみます」

 後ろからは小夜子の足音がする。怒りのこもった烈しい靴音が耳に響いてくる。
通行人にも訝しがられている様子が伝わってくる。
正三の知る電話機といえば黒電話だが、改札口を出てすぐの右手に受話器の付いた細長い箱状の物がずらりと並ぶ一角があった。
そしてそこには冊子がぶら下がっている。
目をこらすと、確かに電話帳どあった。
「あった!」と声を上げて、小躍りせんばかりに駆け寄った。

 電話帳をめくり劇場という項目を見つけて、早速電話をかけた。
「もしもし。そちらで、生バンド演奏を聞かせていただけますか?」
「こちらは、映画の上映館ですので。バンド演奏はやってません。
キャバレーぐらいじゃ、ないですか。
でも、夜ですよ、夜」

 劇場と名の付くものに、片っ端から問い合わせてみたがだめだった。
“困った、どうしょうか。夜ではだめだし”。
思案顔の正三の所に、しびれを切らせた小夜子が寄ってきた。
「ごめんなさい、小夜子さん。キャバレーとか言う所だけのようです。
然もそこは、夜にならないと営業しないようです」
「そうなの、やっぱり」
「やっぱり、って。小夜子さん、キャバレーをご存知なんですか?」
「いいわ。それじゃ、百貨店に行きましょ」

 小夜子が目の敵にしている本物のお嬢さまである後藤ふみこが、鼻高々に語っていた百貨店なるものに興味を覚えた。
「とにかくね、すごいの。
とにかくね、きらびやかな世界というものがどんなものなのか、初めて知ったのよ。
ああ、ほんとにすてきだったわあ」
 と、なにがどう素敵で、どうきらびやかだったのか、具体的なことは一切話そうとせずにいた。
あなたたちに聞かせたらなくなってしまうわ、とでも言いたげに、自分だけのものよと言わんばかりだった。

「あら。そのひゃっかてんって、どこにあるのかしら? どんなお店なのかしら? ひょっとしたら、あたくしも行っているかも」
 小夜子自身、思いもかけぬ言葉を発してしまった。
口にした途端に後悔したのだが、吐いたつばはもう飲み込めない。
「県庁のある市よ。竹田さんのご存じない街ですわ。
数字の百に雑貨の貨で、百貨店。なんでもそろっている、大きな建物のお店ですわ」
 見下すふみこに対し、ひと言も返せない自分が腹立たしい。
聞こえなかったふりをして「鈴木さーん」と声を上げて立ち去った。

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