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敏洋’s 昭和の恋物語り

狂い人の世界 [第一章:少年A](十九) 

2020年08月18日 外部ブログ記事
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 そして少年による再びのマネキン詣では、一週間ほど経ってからのことでございます。
外出を希望する少女に対して、渋々承諾した少年が二人が出会った場所へと向かったのでございます。
そうなのです、あの洋品店へと出かけたのです。
滞在時間も、朝から夜までが続きました。
もちろん、二人揃ってでございます。
店主もびっくりです。少年一人だったものが、二人に増えたのでございますから。
警察を、と考えはしたようですが、今しばらくの様子見を決め込みました。

それが功を奏したのか、日によっては見かけなくなりました。
現れても、半日ほどで立ち去るようになりました。
いえいえ、少女が何かを言ったわけではありません。
少年主導の下――はたしてそうなのか……。表面上は少年が口にするとおりに少女は動きます。
が、時折首をかしげては少年に再考を促す仕草に対して「今回だけだぞ」と変わることが増え始めました――少年の意のままに一日が過ぎてゆくのでございます。

 ある日のことです。少女が珍しく少年に詰め寄りました。
いつものごとくにマネキン詣でに出かけようとしたとき、少女が座り込みました。
何事かと気遣う少年に対して「一人で行って」と言うのです。
母屋から母親が飛び出してきて、少女の体調を事細かに確認します。
まさかとは思いいつも、母親の脳裏に妊娠という二文字が浮かんでいました。
二人の出会いがいつだったのか、まったく知らぬ母親です。
1ヶ月にも満たないことを知っていれば、このような危惧感は抱かなかったのでしょうが。
結局のところ少女の希望する商店街へ向かうことになりました。

 その折りの二人ですが、少女の喜びようは尋常ではございませんでした。
見慣れた場所であるにもかかわらずに、少女には初めての町並みに見えたようでございます。
駅から真っ直ぐにつづく道路の先にある商店街がキラキラと輝いて見えます。
頭上にある商店街のアーケードは、[ようこそ! いらっしゃいませ!]と大歓迎してくれています。
これまで上を見上げて歩くことのなかった少女には、まったくの別世界であり夢への入り口に見えたのでございます。

 思い出しました。
ほんの数前のことなのですが、まだ中学生だった己を思い出したのです。
仲の良かった女子たちだけでカラオケ店で大騒ぎをし、喉が渇いたお腹が空いたと小さなお店での飲食で笑い転げた己を思い出したのです。
しかし少女の喜ぶ姿や声に、次第に少年は無口になっていきます。

*次回は、8月22日(土)にお届けします。

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