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敏洋’s 昭和の恋物語り
敬愛する 芥川龍之介 を語る (六)
2020年07月26日
テーマ:テーマ無し
ところで、芥川の作品を実際に読んでみて最初に驚くのは、作品の趣向の違いである。
芥川は、殆ど一作毎にそれを変えた。
しかも、彼のモザイクの制作は素材・形式ばかりでなく、人間の精神の動き方・意識の深さの多くの層を次々と造っていった。
この点が、彼の文学的要素しては重要なものでもある。
芥川の場合の多様性が、人生を理知的な面からの断片的な寸景としたり、物語的空想の奔放さの舞台としたり、絵画的に絢爛たる仮装行列としたり、速力のある一つの話に縮めたり、神秘的な超自然の現れ出るすき間とした。
芥川における最も現代的文学の特質は、この人間意識の多層性を作品の中に捉えたということである。
言いかえれば、人間の考えること・思うこと、それら全てを己の考え得る限りの(有限ではあるにせよ)その範囲を最大限に広めて、人間を捉えようとしたことである。
日本の明治・大正文学に最も大きい影響を与えた、十九世紀における西欧の写実主義は、世紀後半の自然派の純粋客観的主義方法において完成したとされている。
が、その客観的現実認識というものは、一定の精神状態に写る現実を描き出すということであり、それはあくまで個人ではない。
主観はないのである。
その為に作者は個人的主義を排して、いわば科学者が実験の対象を観察するように、冷静に価値感情や好悪を混えず、社会を見つめた。
そしてその筆でもって文学は発展した。
例えば、そういう客観的態度から生まれた最も偉大な作品は、トルストイの『戦争と平和』であろう。
トルストイの精神は、絶えず一定した澄みわたった鐘の如きもので、いわば神の視線が下界を見下ろしているという感じである。
それ故に、あのように生き生きとした最も多くの人間が描かれたのかもしれない。
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