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敏洋’s 昭和の恋物語り
狂い人の世界 [第一章:少年A](十二)
2020年07月01日
テーマ:テーマ無し
食堂へは、二階に上がらなければならないようです。
本来なら部外者のわたしなどは同行することなどはできないのですが、不思議な縁がありまして、ここの施設長がわたしの知り合いだったのです。
知り合いと言っても近しい方ではなく、知り合いの知り合いといった方でした。
最近レポートに困っている事を知っていたA氏が、顔見知りの施設長さんが冗談交じりに漏らされたことを、わたしに教えてくれたというわけです。
そこで半信半疑ながらも、その話に乗ってみようかと……。
高齢のお二人です、てっきりエレベーターかと思いきや、いやあ、お元気です。
何のためらいもなく階段を使われました。
その健脚ぶりには驚かされます。
わたしの方が息が上がってしまった始末で。
ほんとに情けないことです。
お二人は70歳を優に超えられているとのことですが、昭和の時代を過ごされてきた方はお元気そのものです。わたしも一応は昭和の生まれですが、ほんの数年のことですので。
おっと、もうお席に着かれています。
4人テーブルと2人テーブルが、それぞれ5卓ずつありいちどきに30人の方が食事できるようです。
卓同士の間隔もゆったりとしていて、介護職員さんの手伝いがし易くなっています。
ここは部屋と言うよりはホールと呼んだ方がいいかと思えます。
エレベーターと階段からは廊下につながり、そこに入るには仕切り板が設置してあります。
入居者といえども勝手に出入りができなくなっています。
健常者ならば簡単に外せる留め金がかかっていますが、認知症を患っておられる方には、ちと無理なことかもしれません。
さてと、お二人の姿は……。ああ、お見えになりました。
左隅の奥深い場所に陣取っておられます。
2人用のテーブルに、向かい合ってお座りです。
大きな窓が設置してありますので、全体が明るい雰囲気ですよ。
天井にある2基の大きなシーリングライトも、昼間は不要なようです。
バルコニーが見えます。
何脚か椅子が置いてありますが、陽気の良い日には満席になるほどの人気だそうです。
そうそう、お二人でございますが、お蕎麦を食してらっしゃいます。
職員さんのお話ですと、昼食は軽めにされて夕食はしっかりと摂られているようです。
神さまは和食系で、閻魔大王さまは洋食系を好まれるとか。
ですが、ほとんど毎日のように、互いのおかずを少しずつ交換されているとのことです。
朝食は、どちらもトーストにコーヒーだそうです。
コーヒーと言いましても、昔でいうコーヒー牛乳だとか。
そして、ヨーグルト類もしっかりと召し上がれているそうです。
神 =
とんでもないこととは、少年事件の凶悪化のことかね?
閻魔=
それもございます。が、家族間の殺傷事件が、過去にも増して凶悪化しているのでございます。
兄弟殺し、そして親殺し、といった具合でございます。
家庭の崩壊ゆえか、家族間の繋がりといったものが希薄になっております。
神 =
ふーむ。核家族化と称される時代に育った人間が、親になってからのことなのか?
閻魔=
世代的にはそういうことに、なるのでございましょうか。
世相が快楽主義を希求しておりますのでございます。
神 =
ふーむ、嘆かわしいことでは、あるの。
閻魔=
はい。誠に、その通りでございます。
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