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独りディナー
娘と美術展へ
2019年05月29日
テーマ:シニアライフ
娘は現在、京都の芸術大学に、通信教育の学生として籍を置いているらしい。
比較的、せっせと美術館には足を運ぶらしく、今回は私がまだ東京滞在中の月曜日に、珍しく開館している、国立新美術館へ同行してくれた。
クリムト展を開催している都美術館よりは、遙かに混雑は少ないだろうと思ったけれど、それなりの混雑はある様子だということで、開館時間に合わせて着くように待ち合わせた。
娘は入り口で、イヤフォンガイドを借りて、一つずつゆっくり回るという。
私は何時もまず、ざーっと一周して、気に入った作品を見つけたら、そこで暫く見入る、というのが習慣である。
どうせ写真が撮れないし、とスマホも一緒に入れて、荷物をロッカーに預けたのは、別々に回ることにした二人の、連絡用品が手元から失せてしまって失敗だったけれど・・。
まぁ、今回のテーマは、ウィーンの世紀末の頃の、「新芸術派、ノイエ・クンスト」と呼ばれる人達の展示だから、ウィーンオタクの私は、何処を見ても楽しかった。
保守的な芸術家達の集まりから抜け出した、新芸術派の若者達は、それぞれの分野の垣根を越えて、友好を結び、お互いに影響を与えたらしい。
ウィーンの街を歩いていると、代表的な建築家、オットー・ワーグナーの作品が、よく目に入る。
有名な「カール広場、カルルス・プラッツ」の建物は、現在も地下鉄の駅舎として使われているし・・。
当時としては画期的な、一切の装飾を廃したロースハウスも、王宮の裏側にあるミヒェル広場の角に鎮座している。
旧市街を囲む城壁を取り壊して作られた、「環状通り、リンクシュトラーセ」の、周囲に建つ、市庁舎や議事堂などは、城壁に使われていた石材が利用された、等など。
折に触れて耳にした豆知識の数々が、図解されていたり、映像で解説されたりしているのを見るのは楽しかった。
芸術家達、お互いの交友関係が、図解されていたり、クリムトが作業服として着用していた、青いロングドレスのようなスモックとか、愛人のエミーリエ・フレーゲのドレスを再現したのが飾られていたり。
それらは、着用していた人の体格などが想像されて、面白い体験だった。
当時の自立した女性の一人であったこの人は、自身もファッションデザイナーで、クリムトの愛人であり、パトロン的な存在でもあったらしい。
クリムトの描いた、この女性の肖像画が、今度の企画展の代表的な作品らしくて、この作品だけは撮影可であった。
この人は、やせて長身の様に見えるけれど、よくよく絵に見入ると、姿の一部が、何かの影に隠れていて、それが極端にやせて見える原因である事が窺えた。
実際に絵の前で長く眺めていると、クリムトと彼女の気持ちの、何かが伝わってくる気にもなるし、その何かが時間と共に変化もしてくる。
私は基本的に人物像が好きなので、この人の肖像画と、エゴン・シーレの描いた批評家「レースラーの肖像」が、最も手応えがあった。
レースラーの表情は、特に面白かった。
シーレを早くから認めて、世に紹介した人らしいが、多分この人がシーレの前でポーズを取った訳では無いだろうな・・、とか。
長い指の両手は、何故か親指が隠れて居るのだが、それは自然体の様子では無いかも・・、とか。
人物画は、自画像も含めて、描かれて居る人と描いて居る人の、それぞれの感情とか、関係性等が想像できて、私にとって、美術館での至福の場面、とも言える。
イヤフォンガイドを聞きながら、一点一点、丁寧に見ていた娘が追いついてくるまで、私は暇つぶしのように、それらの前に立ち続けた。
最初の混雑の場所は、素通りしてきたので、私は殆どの場所で独占する様に眺められて居たけれど、次第に人が増えてきたので、後戻りして娘を探し、先に出てグッズ売り場を眺めている旨を伝えた。
ゆっくりと鑑賞していた娘を、若干せかす結果になったらしいけれど・・。
私はそこで、すっかり気に入ったクリムトのスモックを模した、青いTシャツを買った。
人気商品でもあるらしく、其処のスタッフさんの何人もが、そのTシャツを実際に身につけていた。
後から出てきた娘と、その後食事をしたり、カフェでお茶を飲みながら、感想を交換したりしたのは、とても楽しかった。
娘は、美術展では、展示されている作品や作家の、背景を繋げていくのが面白いらしく、色々自分なりにメモしたのを見せてくれた。
当時、ロンドンやパリ、ウィーン等で開かれた万博が、芸術家達に大きな影響を与えていたらしいのも、スマホで年号を調べながら、整理するのに二人で夢中になって、帰りの新幹線の時間を忘れてしまいそうな位であった。
やっぱり、娘とのおしゃべりは気が置けなくて、実に幸せな時間である。
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