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パトラッシュが駆ける!

言おうか言うまいか 

2019年04月13日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「どうして、おっしゃって下さらなかったの?」
「言えば自慢になるから」
「なったって、いいじゃない」
「そうは行かない。たかが新聞に載ったくらいで、
大騒ぎしてたら、沽券に関わるもん」
「うちの父と同じだわ、そういうとこ。もう頑固なんだから」

瞭子ちゃんに責められている。
昨日である、彼女に会ったのは。
そして、今朝の朝刊に、私の文が載った。
それを分かっていたのなら、その時、言ってくれたって、
いいじゃない。
水臭いわ。
と言いたいのであろう、彼女は。

投稿文が新聞に載ると、反響がある。
見ず知らずの人から、電話を頂戴することがある。
居住区と名前を手掛かりに、電話帳を繰り、
番号を割り出すと思われる。
手紙を頂くこともある。
これは新聞社経由で届く。
読者から託された手紙に、投稿欄の担当者が、
住所を書き込み、回送してくれることになる。

瞭子ちゃんの場合は、どうやら口コミであるらしい。
彼女の友人が、新聞を読んだ。
題名の「遍路旅」と、職業欄の「囲碁サロン経営」から、
ピンときたらしい。
瞭子さん、これ、あなたが前に語っていた、
あの人ではないの?と。

瞭子ちゃんは電話で、投稿者、つまり私の名を伝えられ
「えっ?」となったらしい。
それで私に確かめた。
そうして責めた。
世間は狭い。
悪いことは出来ない。
何処で見られているか、知れたものじゃない。

この一部始終から察するに、瞭子ちゃんは以前に、
私のことを友人に喋ったのであろう。
一風変わったおじさんが居る。
囲碁サロンをやりながら、文を書いている。
原発に反対し、しょっちゅう国会前のデモに行っている。
くらいのことを、喋ったと思われる。

さらに言ったかもしれない。
あたしの父と同じ名前なの。
歳は、一回り下の“ヘビ”なのよ。
そして、血液型まで一緒なのよ。
ね、これって、気持ち悪いでしょ……
ここまで言うからには、私達の関係を、もう洗いざらい、
喋ったかもしれない。

銀座の料理屋でね、毎月、落語会が開かれててね。
そこに何度か通っているうちに、親しくなったの。
来い来いと言うから、昨日初めて、その囲碁サロンまで、
行ったのよ。
囲碁?私はやらないわよ。
出来ないわよ。
お茶はいいですって言ったら、じゃあって言って、
グラスを出したのよ。
それにお酒をなみなみと注いでね。
私、これから寄るところがあるからって言うのに、
どんどん注いじゃうのよ。
仕方ないから、飲んだわよ、あたし。
昼間から赤い顔して、どうしようかと思ったわ。

その翌日でしょ、あなたが電話をくれたのは。
それでびっくりしたのよ。
こんな場合「明日、新聞に載るよ」って、
一言言ってくれるのが普通でしょ。
あの人、変なのよ。
言わないのよ。
普通じゃないのよ。

私は多分、世に稀なる変人として、
彼女らにより語られているに違いない。

 * * *

「僕んちのお母さん、漫画家なんだー」
「へえ」
「本も出してんだー」
「そうかい、そりゃ、大したもんだ」
啓太が言った。
彼は小学二年生、私の囲碁塾の生徒である。

漫画家と言っても、いろいろある。
本を出すと言ったって、様々にある。
現に私だって、出している。
自分でお金を出しての、つまり自費出版という奴だが。

啓太から聞いた、キーワードで検索してみたら、
あるサイトに行き着いた。
一風変わったペンネームではあるが、
そこに本名の一部が加わっている。
それで、すぐにわかった。
女性らしい、ほのぼのとした絵を描いている。
四コマ漫画であり、ともすれば、見逃してしまいそうな、
家庭内の些事が、コミカルに綴られている。
家族四人が登場する。
それぞれの顔が、私の知る実物に、よく似ている。
巧みに特徴を掴んでいるところ、練達の技を感じさせる。

さて、どうしたものだろう……
彼女にこれを、どう伝えたらよいか、それを考えている。

啓太にはかつて、私が本を出していることを語った。
実物を見せたこともある。
多分、その顔が、信用しなかったからだと思う。
ふーん……
と洩らした、それだけであった。

口の達者な啓太が、家庭に帰り、
それを父母に伝えないわけはない。
と思っていたけれど、その後、その父母から、
何かを言われたことはない。
本のホの字、文のブの字も出ない。
子供の噂話に、振り回されてはいけない。
という自制が、両親の中に、働いているのかもしれない。

となると、私も漫画の話を切り出しにくい。
向こうが言い出さないなら、こちらも……ということがある。
これをプライドとは言うまい。
単なる意地の張り合いかもしれない。

桜田五輪担当大臣が、度々の失言で、
とうとう辞任に追い込まれた。
その彼が、国会答弁の中で、言ったことがある。
「至らぬところはありますが、私には別の能力があります。
判断力、決断力です。私の決断力は抜群です」
これを聞き、思わず笑ってしまった。
「抜群です」なんてことを、自分の口から言う奴が居るだろうか。

この私を見よ。
「載りました」「本を出しました」なんてことを、
この口からは、とても言えない。
そのくらいに、人間が小さい。
私は、政治家にはなれない。
とてもなれない。
市井の片隅で、子供に囲碁を教えるくらいが、
この身の丈に合っている。



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同じへび仲間

パトラッシュさん

yopikoさん、
一回り下の巳ですね。
微妙な歳の差です。
親子?ほどには差がなく、兄妹にしては差があり過ぎる……
まあ、同族ゆえ、仲よくやりましょう。(笑)

2019/04/14 08:55:50

私も巳年

yopikoさん

変な所に気が付いてしまいました。

仕事仲間の若い男性保育士に
お母様の干支は?と聞くと
「何だろう、聞いてみます」
と言われました。

家族の干支くらいは......
覚えて欲しいです
3歳の孫でも言えますけどね

パトさんも巳年
なんだか嬉しい気持ちになりました。

2019/04/14 06:49:52

誰でも載ります

パトラッシュさん

吾喰楽さん、
そのセリフは、夜だから良いのです。
時は「真っ昼間」でした。
言われたって、艶も何も、感じなかったでしょうね。

自分から「載りました」と言うのも、気恥ずかしいものですよ。
吾喰楽さんも、是非経験なさって下さい。

なに、簡単です。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。
これで行けばよろしいのですから。

2019/04/13 13:54:23

分母という考えで

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
仰る通りです。
本を出した場合は、極力周知を行います。
お金の問題もさることながら、本は、読んでもらわなければ、出した意味がないからです。
この辺は、演奏会も同じでしょうね。
読者や聴衆は、多いに越したことはないからです。

新聞投稿の場合は、少し状況が違います。
既にしてそこには、数十万人と言う、読者がいます。そのうちの数パーセントでも、読んでくれたら、もう十分というところがあります。
分母が違う。
これが余裕につながる。
ということは、あるでしょうね。

2019/04/13 13:42:34

私も

吾喰楽さん

おはようございます。

お酒をなみなみと注いだとき、「私を酔わせて、どうするの」と、言われませんでしたか。(笑)

私も、あちこちに電話はしません。
目の前に居る人なら、話は別です。
でも、私が採用されることはないでしょう。

2019/04/13 09:49:36

掲載が、そもそも宣伝ですから

シシーマニアさん

我が身に置き換えると。

コンサートを開催しても、宣伝しなくては誰にも来て戴けないのです。

チラシをお見せするというのは、即ちチケット買って下さい、と言うわけですから・・。


新聞に載って、別にそれを宣伝しなくても良い、とは何と贅沢な境遇でしょう。

ご本を出されると、そうは行きませんか?

2019/04/13 09:22:44

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