メニュー

最新の記事

一覧を見る>>

テーマ

カレンダー

月別

パトラッシュが駆ける!

満員です 

2020年02月08日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

私は囲碁サロンを営んでいる。
と言うと大層に聞こえよう。
実を言えば、そこは、私が友人知人を迎えるための
「ゲストルーム」に過ぎない。

しかし表戸に、そうも書けないから、少し気取って、
サロンの看板を掲げている。
面積は、二十平米あるかないかで、狭い。
碁盤は三面しか置けない。
収容人員は六名。
こんな碁会所は、日本国中探してもないだろう。

その二十平米を、さらに分け、奥の半分を、
私のプライベートゾーンとしている。
デスクがあり、パソコンを置いてある。
傍らに木製のベッドがあり、そこにコタツを置くのが、
寒い時期の慣例となっている。
客のいない時、私はここに両足を突っ込み、
上半身をデスクの方に捩り、パソコンに向かっている。

飽きると、全身をコタツに移し、仮眠を取る。
客の誰一人、来ない日もある。
その日の私は、終日、仮眠ばかり貪っている。
そんなんで、夜、眠れますか?と聞かれるが、
これが不思議なことに、夜は夜でぐっすり眠れる。
私はもしかすると、何かの病気に罹っているのかもしれない。

本日は珍しく、六名の客が来た。
といっても、収入には結びつかない。
幼稚園児が二名、小学生が四名であり、
彼らからお金をもらう訳には行かない。
彼らではなかった。
全員たまたま女子である。

今時は、コタツのない家庭が多いのかもしれない。
対局を終えた、二人の幼稚園児が、
私のプライベートゾーンを見て喜んだ。
早速、コタツに入り込み、布団の外に、
小さな雁首を並べている。
「あったかーい」
そのうちに、布団の下をトンネルに見立て、潜り出した。
反対側に頭を出し、けらけらと笑っている。

やることが幼い。
小学生らは、さすがにお姉さんであり、
その騒ぎをよそに、碁を打っている。
無心に……と言いたいが、こちらはこちらで、
嬌声が飛び交っている。
「きゃー」「やだー」「もー」
その間に笑い声が混じる。
「あはは」「うふふ」「エへへ」
その騒々しさたるやない。
「静かにやれー」
注意はするのだが、それも束の間、また嬌声が響き始める。
「箸が落ちてもおかしい」という年頃がある。
その低年齢化が、進んでいるのではあるまいか。
私思うに、女は結局、生まれてから老いるまで、
生ある限り、姦しいのではなかろうか。

囲碁は礼に始まり礼に終わる、日本古来の遊戯です。
マナーを守れない人は、破門します。
破門と言うのは、もう、ここに来てはいけないということです。
明日から、先生でもない、生徒でもない、ということです。
私の言うことを素直に聞ける人だけが、ここに来ても良いのです。

入門時に、このように厳しく生徒を諭すのが、
指導者の本来あるべき姿であろう。
しかし、それをやると、せっかく囲碁に興味を持った子供らが、
怖気づき、逃げ出してしまう恐れがある。
先ずは、囲碁に対する、興味を持たせる。
そしてそれを、徐々に醸成させる。
そのためには、少々の放縦は大目に見よう。
ということになっている。

気の短い私が、ここだけは鷹揚なところを見せている。
人間、変れば変れるものだ。
近くの小学校のクラブ活動へ、指導に赴いたのが、
そのきっかけであった。
そこで、子供に教えるには「忍の一字」しかないと知った。
あれからもう、十四年が経つ。

 * * *

A姉妹のお母さんが来た。
様子見であろう。
そして、手土産を持って来て下さった。
ちなみに、六人の中に、姉妹が二組居る。
姉または兄が碁を始め、つられて弟妹も興味を持った。
というケースが多い。

「あら?」
お母さん、我が子を探している。
姉は居る。
傍らで碁を打っている。
妹の姿がない。
「はい、ここです」
私は、境の衝立を開いてやった。
「まあ」
コタツからはみ出た、二つの顔を見て笑っている。

トンネルを抜け、足から出て来た二人を見て、
さらに笑っている。
「Sちゃん、ちょっといらっしゃい」
声をかけたのは、我が子ではない、他家の子の方だ。
「スカートが変になってるでしょ、ほら」
その着付けを直し始めた。
さすがに女性だ。
細かいところに目が届く。
私は男であり、それも武骨者だから、服装などへの頓着がない。
教えるのは、囲碁だけ。
他は知らない。
人生を切り開くのは、君達自身でやってくれと、
ことある毎に言っている。

道行く人々が、ガラス越しに、この光景を見ている。
幼女が六名、笑いさざめきつつ、碁盤に向かっている。
六名入ると、サロンは満員である。
ヒマなサロンだが、月に何度かは、こう言う事態が起きる。
私は、この光景を見たさに、サロンの主をやっている。



拍手する


コメントをするにはログインが必要です

珍しいからでしょう

パトラッシュさん

彩々さん、
道行く皆さんが、にやっと笑って行かれます。
「にや」には、子供のくせに囲碁をやるのか……
へえ……という意味が込められているようです。

2020/02/09 05:54:07

ほのぼのとした光景ですね

彩々さん

パトさんの囲碁サロンは、行き交う人々も
自然と笑顔になれる場所なんでしょうね。

なんか、イイですね!

2020/02/08 16:09:08

PR





上部へ