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パトラッシュが駆ける!

ウイルス怖いよ 

2020年02月22日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

私は本日、朝から張り切っていた。
友人らと、都心にて落ち合い、小さな寄席で、
落語を聞くつもりであった。
「先憂後楽」ということがある。
遊びに行く時は、後顧の憂いを断ってしまった方がいい。
ということで、折しも始まった確定申告を、
午前中に済ませてしまうことにした。
申告書を持ち、勇んで税務署に向かう、その途中において、
携帯にメールが入った。
寄席仲間の、瞭子ちゃんからであった。
ちなみに私は、税務署へ行くにも、徒歩で行く。
物好きに、片道二十分余をかけて行く。

「申し訳ございませんが、本日の三遊亭鳳樂師の独演会に、
行けなくなりました。昨夕から、体調がよくありません。
腹痛と下痢が続いておりまして、今病院に来ています」
まさかと思った。
かつて看護師だった人で、今でも、健康そのものに見える。
しかしながら「紺屋の白袴」ということもある。
医療従事者だって、無病息災とばかり行かない、
その例は、今回の騒動においても、各地で見られる。

「了解しました。お大事に」
「私からお誘いしておきながら、申し訳ありません」
瞭子ちゃん、平謝りだ。
しかし、病気とあっては、仕方ない。
誰も好んで、下痢なんぞになりたくない。

日本橋亭まで、私と語句氏とで行くことにしよう。
と心に決めた、その後であった。
私の脳裏を、ふとかすめたものがある。
「止めちまおうか……」
その原因は、言うまでもない。
連日連夜、ニュースの大半を占め、世間を不安に陥れている、アレだ。

どうやら閉鎖空間がいけないようだ。
人と人との距離が近いことも、要注意であるらしい。
となると、定員が四十人ほどの小さな寄席は、
正にこれに当てはまる。
中に、咳する者でも居たら……
会場はパニックに陥りかねない。

正直なところ、不安があった。
しかし、一旦約束したものを、私から反故にすることは出来ない。
それは、友誼に悖ることだと思っている。
そしてまた大の男が、ウイルス如きに狼狽えたとあっては、
末代までの名折れだ。
私からは、言い出しかねていた。

しかし、仲間から欠席者が出たとなれば、もう憚るものもない。
税務署の「提出」窓口の列に並びながら、
私は素早くメールを打った。
大丈夫、列には二十人ほどが並んでいて、
私の番が来るまでには、たっぷりと時間がある。
「貴女が行かないのなら、私達も止めようかと思います」
「そんなこと言わないで。お客さんが少ないと、
鳳楽師匠だって、張り合いがないでしょうから」
「実はウイルスのことが、気になって……」
「それもそうですね。今の時期、用心の上にも、
用心を重ねた方が、良いかも」
これだけのメールをやり取りしても、列は遅々として進まない。

私は返す刀で、語句氏にもメールを送った。
「本日の寄席は、取り止めにしませんか?」
「いいですよ」
語句氏が、あっさり応じたところを見ると、彼だって多少は、
ウイルスのことが、気になっていたのではあるまいか。

暗雲が晴れた。
申告書も無事に提出を終えた。
ついでに納付も済ませてしまった。
なに、大した金額ではない。
雑事は素早く、片付けてしまった方がいい。
私は短気だから、目の前の懸案を、明日に持ち越すことが出来ない。
そのくせ翌日には、何もやることがなく
「今日もヒマだなあ……」と嘆くことになる。

 * * *

復路も歩いた。
合計五千歩。
朝のそれと合わせ、一日の目標である、一万歩に達している。
夕刻のノルマは、もう果たさなくてもいいだろう。

実は、飲むことになっている。
寄席は取り止めた。
ではサヨナラ、というわけには行かない。
「友あり、遠方より来たる」のである。
語句氏は、居酒屋へでもと言うけれど、考えてみれば、
あれだって人込みだ。
不特定多数が肩を並べ、時に客同士が、
口角泡飛ばしていたりする。
この際、徹底的に、ウイルスから離れた方がいい。
ということで、私のサロンで飲むことにした。

サロン、即ち囲碁サロンであるけれど、客が居ない時は、
私の応接室になる。
そして実は、客の居ない時の方が多い。
私は、友人知人が来ると、委細かまわず引き止め、
それがいける口であるなら、酒をお出しすることにしている。

いっそ、居酒屋に衣替えしたい。
しかし、ネックがある。
私は、調理が出来ない。
飯も焚けない、味噌汁も作れない、沢庵を切れば、
不揃いとなる、名うての不器用者だ。
三食とも、妻に頼っている。
そして、そこに酒瓶があれば、客に注ぐより、
自分が先に飲んでしまう方だから、とても商売にならない。

まぐろの切落し、鰊の粕漬け、鶏の唐揚げ、カキフライ、
切ってある沢庵などを並べ、語句氏をもてなした。
いずれも税務署帰りに、スーパーで買って来た。
包装を解いて、ただ並べただけ。
実にもう、簡素な酒宴だ。

その代わりに、酒だけは潤沢にある。
隣が酒屋であることも幸いし、銘酒、希少酒の類が、
容易に入手出来る。
本日も、よく飲んだ。
三種の美酒を用意し、その四合瓶を二本、空にした。
談論が風発した。
格別のテーマはない。
ただ世相を斬り、芝居と落語を語っていた。

ウイルスが 怖くて家で 深酒し
ガラス越し 覗かれている 酒宴かな
飲兵衛は 世情の粗で 酒を飲み
税務署へ 行ったが今日の 一仕事
咳すれば 署員思わず 顔そむけ
いい気味だ 納税の労 知るがいい

駄作がいくらでも出来る。
私の懶惰な一日が終った。



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毒をもって毒を制す

パトラッシュさん

漫歩さん、
掃除もろくにやっていない、私のサロンは、さぞ雑菌だらけだと思います。
逆にそれが幸いし、ウイルスを防いでいるのかもしれません。
ダイヤモンド・プリンセスの、清潔感あふれる船内光景を見るにつけ、適度の猥雑さも、必要なのかな……と思ったりします。

2020/02/22 15:35:56

惜しかった……

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
今の世の中、総じて、疑心暗鬼になっているきらいがあります。
後になってみれば「あの時、なんであんなに過剰反応したのだろう……」ということになるかもしれません。

ちなみに、私のサロンでなら、問題ありません。
語句氏と同じ接遇を致します。
何時でもお立ち寄りください。

2020/02/22 15:04:42

令和の初騒動

漫歩さん

危険極まりないウイルスを遠ざけて楽しむには、まさに絶好の場所でしたね。

世相を論じて談論風発、そのうえ名句次々に発するに至り、パトさんの独壇場!

語句氏が隠れ陰性だと濃厚接触ですね。(笑)

2020/02/22 10:49:57

私も

シシーマニアさん

明後日から、数日間東京へ遊びに行く予定でした。
阿部寛の「ヘンリー八世」を見るのが、主な目的でしたが、友達に声をかけると、おおかたの夜は、飲み会で決まりました。

昼間に師匠のサロンを覗いてみようかな、と思ったり、お昼はゴクさんお気に入りの立ち食い寿司へ行ってみたい、等など想像を膨らませていましたが・・。

ふと、会う相手に持病のある人とか、家族が療養中の人が居るのに思い当たり、結局取りやめることに致しました。

相談のメールを送った相手からも、即、では取りやめましょうと返事が来ました。
あちらも、来ないで欲しい、とは言いにくかったのでしょうね。

さて、すっかり暇になった一週間。
メリー・ウィドーも、おとなしく過ごすしか無い様です。

2020/02/22 09:39:48

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