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パトラッシュが駆ける!

新聞に載るまで 

2019年03月18日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「毎日新聞、家庭欄担当の○○です」
女性の声で、電話がかかった。
「ご投稿頂きました文について、確認したいことがありまして」
ということは、私の文が、掲載されるということであろう。
ボツになるなら、こんな電話はかからない。

私が、送稿してから、まだ三日しか経っていない。
異例に対応が早い。
ということは、私の文が、出色だったか、それとも他に、
これはという作が、なかったからだろう。
私は、前者と思いたい。
今やブームとなりかけている、ある事象について、
私は疑問を抱いた。
そんなもので、人間が幸せになれるとは、思えませんと書いた。
それが的を得ていた。
読者の共感を得られるであろうと、新聞社が判断し、
掲載を決めた。
そう思いたい。

「歩いて四国を一周なさったそうですが、
何日くらいかかったのでしょうか?」
「延べ四十日です」
「ワーすごい……その間、ずっと旅を続けておられたのですか?」
「いや、五回に分けました。これを『区切り打ち』と称します。
例えば、徳島県を回り終わると、一旦家に帰り、
一か月後に再び出直して、今度は高知県に入ると言う風にです」
「一日に、どのくらいの距離を、歩かれるのでしょうか?」
「平均で三十キロ、多い時で、四十キロ歩いたこともありました」
「ワーすごい……」
感嘆してばかりいる。
女性だからであろう。
私の知っている、男の記者さんは、皆さん冷静で、
こんな風に、感興をあらわにしない。

「元々、歩くことが、お好きだったのでしょうか?」
「まあ、好きでしたね。遍路旅の前には、
歩いて東海道を旅しましたし」
「ワーすごい」
「その後には、これも歩いて、中山道を京都に上りましたし」
「ワーすごい」
何やら、酒場のホステスさんと、話している気分になる。
新聞の投稿欄担当者は、投稿文のチェックが仕事のはずだ。
感心してばかりいて、どうする。
と思うのは、実情を知らない人だ。

彼らは、さりげない雑談の中で、実は、投稿者を探っている
彼らが恐れているのは、不正投稿だ。
他人の文を模倣する。
剽窃する。
そういう投稿者がいないとは限らない。
二重投稿も困る。
他紙に同じ文が載り、それがしかも、後塵を拝するようだと、
編集者としては、面目が丸つぶれになる。
それらを防ぐために、苦労している。

投稿者が、その申告の通りに、実在する人物であるのかどうか。
投稿文が、正しくその手により、書かれたものであるのかどうか。
彼らは、それを確かめたい。
新聞記者の第一義、それは「裏を取る」ことだ。
女性記者の「ワーすごい」は「裏取り」の一環と思った方がいい。

 * * *

書いた文を、ブログでなく、SNSでもなく、
新聞に載せたい時がある。
自分の意見を、より広く、人様に読んで頂きたい時、
新聞の発行部数というのは、
最盛期より減っているにしても、依然として大きい。

私の購読新聞は、朝日と毎日であり、これを折々に交替する。
投稿する場合も、このどちらかに、ということになる。
朝日新聞「声」欄、500字
毎日新聞「みんなの広場」400字
字数制限があり、これが紙面の都合で、やむを得ないとはいえ、
非常に小さい。
思いの丈を丁寧に綴って行くと、じきに制限を超える。

私の文は、政治、経済、社会の諸問題を、
舌鋒鋭く突くというものではない。
生活の中で感じた、些細な感動を、多くの人に伝えたい。
そう言う趣旨の文が多いから、どうしても長くなる。
定められた字数に収めるのが、何時も大変に難しい。
(例えばこの文、ここまでで、1400余字。雑談に終始し、
論旨というようなものは、何もない)

毎日新聞の家庭欄に、もう少し大きな枠がある。
600字、それでも十分ではないが「声」や「広場」よりは、ましだ。
私は、こちらの欄へ、投稿してやろうと思った。

欄の名を「男の気持」というのが、少し面映ゆい。
それはかつて「女の気持」という、女性専用の投稿欄であった。
男を締め出すのも可哀想だから、入れてやろうということで
参入が認められた。
さながら、由緒ある女子高に、男子の入学枠が、
設けられたようなものだ。
そこでは、当然のように、男子入学者の居心地はよくない。
しかしながら彼には、他に入るべき高校がなかった。
やむを得ず、籍を置いている。
私も、そんなような気分で
「男の気持」を利用させてもらっている。

 * * *

「八年前の旅のことを、どうして今になり、
書かれようと思ったのですか?」
その疑問は、もっともだ。
ここでも彼女は、私の投稿文に対し、多少の疑念を抱いている。
納得行くまで質問をする。
それが、記者の仕事である。

「昨今の、ご朱印ブームのせいです。
皆さんが、誤解されておられるからです。
ご朱印を集めれば、ご利益に預かれると思っておられる。
しかし、違うのです。
ご朱印は、あくまで結果であって、目的ではないのです」
「なるほど」
彼女の口から「ワーすごい」が出なくなった。
「このブームに、警鐘を鳴らしたいために、
かねがね思っていたことを、文にまとめたまでです」

ここで、ひょっとして、彼女の口から、最後の質問が出るかと思った。
「どうして『男の気持』欄へ投稿されたのですか?」
これに対し、私は、適当な答えを、持っていない。
まさか、字数の関係で、ここしかなかったのですとも、
言えないではないか。
いや、正直に、言わざるを得なかったかもしれない。
しかし、彼女の追及は、既にして止んでいた。
私を、真正な投稿者として、認めたと思われる。

「それでは、掲載予定の文を、メールで送ります。
一部修正した箇所がありますので、ご確認ください」
彼女との電話は、それで終った。

 * * *

その日の夜、旧友のAから、突然、電話がかかった。
「おい、今NHKで、遍路の話をやってるよ」
慌てて、テレビをつけると、
それは「ブラタモリ」という番組で、タモリなる男と、
もう一人の女性タレントが、遍路姿に身なりを替え、
徳島の田舎町を歩いていた。
一番札所霊山寺と、その周辺である。
持つべきは友だ。
彼は、遍路旅への、私の格別な思いを知っている。

番組が終った後、私はその友に電話を返した。
「見たよ」
「物足らなかったかな?」
「いや、面白かった」
知らせてくれた手前、ということもある。
実は、さほどの感銘は受けなかった。
私は、タモリと言う男が、あまり好きではない。

「ところで、新聞は何を取ってる?……
ああ、毎日か、ちょうどいい。明後日の朝刊に、
私の書いた文が載るから、気が向いたら読んでくれ」
「何を書いたんだ?」
「遍路旅についてだ」
「そりゃまた、随分と偶然じゃないか」
友の笑い声が、受話器に響いた。

 * * *

私の投稿文は、本日の毎日新聞朝刊
「男の気持」欄に載っております。
題して「遍路旅」
お読みになりたい方は、どうぞ。
但し、わざわざ新聞を、お買いになる必要はありません。
コピーして、近日中に、私のホームページに、
転載するつもりでおりますので。
http://www.patrasche.sakura.ne.jp/



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ありがとうございます

パトラッシュさん

彩々さん、
お願いです。
尊敬なんか、しないで下さい。
私は懦夫です。
凡夫です。
皆さまからのご薫陶により、なんとか人生を送っております。
今後とも、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。

「読んだぜ」と旧友から電話がかかることもあります。
「電話帳で調べました。投稿なさったのは、お宅様でございましょうか?」
見ず知らずの方から、電話を頂くこともあります。
これが楽しくて、新聞に投稿しているようなものです。

人生に寂しさを感じたら、また投稿してみようかと思います。
適当なネタがありましたら、どうぞお知らせ下さい

2019/03/20 19:36:51

ご褒美ですね!

彩々さん

投稿文をここにUPしてくださったので
拝読することが出来ましたが、知らずに
毎日新聞で目にしていたら、きっと
「あれっ!?」と、投稿者にパトさんの
お顔が浮かんだことでしょう。

ナビのブログ、ご著書からも「人となり」が
香る、パトさんの文章。

もう、何年になるでしょう。
お仲間に加えさせて頂いてますが、
実際にお会いしても一分とも違わないほど
文章通り、常に自然体のパトさんです

尊敬しております。

2019/03/20 14:27:47

お会いしたかったです

パトラッシュさん

山すみれさん、
海沿いに道で苦労したのは、土佐でのことです。
室戸と足摺、この両岬へ行く道には、難渋させられました。
しかし、その行程を歩き切った自信が、今日につながっております。
住民の皆さんのご親切には、今も頭が下がります。
思い出すと、涙がにじむことも、しばしばです。
惜しむらくは、旅の前に、山すみれさんと知り合っておけたら……ということです。
新庄川のほとりで、お目にかかれたら……
旅はもっと楽しかったでしょう、きっと。

2019/03/19 20:22:50

いかがでしょう……

パトラッシュさん

みさきさん、
早速にお読み頂きまして、ありがとうございます。
普段、野放図に書いている身としては、五〜六百字の制限は、つらいものがあります。
しかし、その場を借りる者として、ぜいたくは言えません。
文章修業にもなります。
普段、いかに無駄な言葉を羅列しているかと反省もさせられます。
みさきさんも、試しに投稿なさいませんか?
何処の投稿欄も、今はWEB経由で行えますので、海外からでも可能です。

2019/03/19 20:15:54

感動の我が四国遍路♪

山すみれさん

地元民として

四国遍路はそれこそ
地元の先達と大型バスにて、
農閑期と云って

年一回一番暑い夏〜泊にて
81番までのベテラン運転手さんの
扇動でお参り致しました。

それと毎年春は近辺の7ヶ所のお参りに参加しました。

気の遠くなるような歩き遍路の体験が新聞に掲載されて、

その、心に染み入るご感想ほんとうに、御礼を申し上げます。

2019/03/19 14:36:48

拝読いたしました。

みさきさん

投書が、採用されて活字になるまでの過程をたいへん、興味深く伺いました。

HPご掲載記事、拝読いたしました。
山道 坂道 照る道 木陰…、短い文章にも旅路の味わいは深く、自ら歩くことで、その一歩一歩から、脳に心に響くものこそが、お遍路旅の賜物。ブームに煽られがちな昨今ですが、原点をお示しいただいたのだと思います。

沢山の情感が散りばめられたご著書と共に、味わい深いお話でございました。有難うございました。

2019/03/19 12:20:09

宝くじでも当たったら……

パトラッシュさん

四つ葉さん、
四冊目……なんてことが、妻に知られると、怒られます。
「あれが最後と言ったじゃない」と。
莫大なお金が(我が家にとっては)かかることもあり、
下手をすると、離婚騒ぎに発展しかねません。

今は、雌伏の時です。
やる時は、突然やります。
富士山の噴火のように……(笑)

2019/03/18 20:00:46

困りました

パトラッシュさん

漫歩さん、
そんなに持ち上げないで下さい。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる……です。

新聞を写真に撮ったのですが、パソコンに取り込めません。(カードかパソコンの、どちらかに故障があるようです)
鋭意努力して、明日中くらいに、UPしたいと思っております。

2019/03/18 19:49:35

チャレンジを

パトラッシュさん

秋桜さん、
ありがとうございます。
私は、好きなもので、のべつ駄文を書き連ねています。
投稿したところ、図らずも掲載されることになりました。
ちょうど、端境期で、適当な文がなかったのでしょう。
秋桜さんも、書いて見ませんか、新聞に。
御病気からの生還、これは、同じ境遇にある読者にとって、大いなるい励ましになると思います。
社会の木鐸たる新聞は、そういう投稿を望んでいるのです。
お試しになっては、いかがでしょうか。

2019/03/18 19:34:59

投稿

四つ葉さん

こんにちはパトラッシュさん。
とても素晴らしいですね。
エッセイの庭も読ませて頂きました。
本当に数々な名文を投稿されていらっしゃるので驚きました。

パトラッシュさんの本3冊も素晴らしかったです。
その中の遍路旅の事ですね。また是非4冊目を‥。

今日の投稿の文を是非ホームページに載せてください。
楽しみです。

2019/03/18 13:41:53

行動する人

漫歩さん

優れた文章力を擁して打って出るパトさんの行動力に敬意を表します。

後日を楽しみに〜。

2019/03/18 13:12:13

パトラッシュさん

秋桜さん

おめでとうございます。
凄いですね。
益々、尊敬の念が深まります。

わたしなど、目のせいにして
グウタラを決め込んでいますが
継続して名文を書かれるパトさん。

素晴らしいです。

2019/03/18 09:47:00

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