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パトラッシュが駆ける!

泣く子は育つ 

2019年02月23日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「もう、やだー」
叫ぶなり、美晴が外に飛び出した。
私は慌てて、後を追った。
「待ちなさい」
相手が女子だから、これでも、優しく声をかけた。
男子だったら「おい、待てよ」になるだろう。

彼女はしかし、振り返りもしない。
その背中には「憤然」の二字が、浮いて見える。
小学三年生だから、無理もない。
おのが感情を、コントロール出来ないのであろう。

「美晴ちゃんが、泣いて帰りました。悠君を残して」
私は、美晴の母親に電話をかけた。
悠は、美晴の弟であり、幼稚園児であり、私のところへは、
何時も姉と一緒に来ている。

「わかりました。大丈夫です。悠は一人で帰して下さい」
お母さんは、落ち着いている。
子を見るに、親に如かずということがある。
「ああ、またか……」ということなのかもしれない。

囲碁サロンの主をやっていて、困ることが、一つある。
対局が終ると、そこに勝者と敗者が出現する。
勝者は良いが、敗者は当然ながら、落胆の中に居る。
時に、悔恨の苦渋に、まみれている場合もある。

指導碁である場合は、問題がない。
先生に負ける……それは、当然のことと受け止められる。
先生に勝つ……それは、先生が緩めた、
つまり手加減してくれたのだなと、こう推察される。
問題は、客同士の場合だ。
よもや……と思っていた相手に負ける。
これが、悔しい。
という事を、私自身だって、過去の経験から知っている。

美晴は十級。
初心者にしては、そこそこの棋力であり、一方のS子は、
二十五級、まだまだ「超」のつくビギナーだ。
やや多めのハンディをと、置石を九個にした。
美晴に鍛えてもらい、尚且つ、勝つことによって、
S子に自信を付けさせたかった。
だから対局中に、要所でアドバイスもした。
これが、幼い美晴の目に、どう映ったかだ。
先生は、S子の方ばっかり、味方をする……
と、憤ったかもしれない。

対局後、彼女は、一人席を離れ、目の辺りをこすっていた。
「碁に勝ち負けは、付き物なんだ。
そこに、こだわり過ぎてもいけないよ」
私は、誰にともなく、言い聞かせていた。
その時である。
「もう、やだー」が出たのは。

 * * *

私のサロンには、奇妙なジンクスがある。
女性客同士が、フレンドリーでない。
それどころか、時に、さざ波が立つ。
大の大人がである。

A子はB江を嫌う。
「あの人、わたしのことを、睨むの。
やっつけてやるわよ……って言う風に」
おそらくは、対局中に、顔を見ただけだろうに、
当人は、そう思い込んでいる。

一方のB江は、C女が嫌いだ。
「あの人、虫も殺さぬような顔をしていて、
やることは、すごいのよ。
露骨に狙って、殺しに来るんだから」
と言っても、盤上のことである。
そこでは本来「切る」も「叩く」も「殺す」も自由なのである。

そのC女がDを嫌う。
「あたし、あの人いやー」
DはEを避ける。
その顔を見ると「また来ます」で、帰ってしまう。

嫌いの連鎖が続いている。
誰一人として、女性同士の対局を、望んでいない。
こんな時、私は思ってしまう。
女の敵は、女なのかなぁ……と。

確かに、囲碁は、戦いのゲームではある。
負ければ、そりゃ、誰だって悔しい。
しかし、それは、盤上に限ってのことだ。
盤から離れたら、勝負を忘れ、友人になれないものか。
趣味を同じくする者として、和気藹々とやれないものか。
囲碁サロンの主としては、それを願っている。
しかし、その願いは、願いのまま、サロンの宙に浮いている。

女性の扱いというものが、私は苦手た。
未熟者であり、永遠に初心者だ。
囲碁の階級で言えば、三十級、多分こんなところだろう。
そんな男が、サロンの表戸に、キャッチコピーを掲げている。
「女性子供歓迎」

 * * *

私が、女児を泣かせてしまった。
これが碁だから、まだいい。
そして、私にも、妙な自信がある。
泣く子は育つ。
必ず強くなる。
実績が、それを証明している。

現在、私のサロンの出世頭は、K男だ。
中学一年にして、既に三段の棋力を持っている。
そう遠くない日に、私に追い付き、
そして、追い越して行くであろう。

そのK男が、小学校低学年の頃である。
負けたと言ってはべそをかき、大石を取られたと言っては、
涙を流していた。
それが泣きやんだのは、高学年になってからだ。
そこから、強くなった。
めきめきと棋力を上げて行った。

そういう先例がある。
だから、美晴の泣きに対しても、心配はしていない。
早晩、何事もなかったような顔で、サロンに現われるであろう。
その時は、言ってやろう。
「次は、勝って、見返してやるんだ」
もう一つある。
「泣くのはいいが、弟はしっかり、連れて帰れよ」と。



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可愛いナミダ

パトラッシュさん

yopikoさん、
逃げ作戦は、保育園児のドッヂボールでは有効な策です。
ボールキャッチは、なかなか出来ませんもの。
逃げ回って、ナミダ……そりゃ、可愛いでしょうね。
目を細めている、yopikoさんの姿が、目に浮かぶようです。

2019/02/25 05:46:58

ドッチボール大会

yopikoさん

孫娘が四つの保育園の対抗ドッチボール大会に参加
「観に来て〜」というので観戦に。ひたすら逃げて逃げて泣きながら逃げまくる姿が何だかとても可愛らしく見えたのはババ馬鹿ですね。人目も憚らず泣きながら勝ちたかったぁと孫娘。私は楽しい思い出に。

2019/02/24 20:04:57

五年後が楽しみです

パトラッシュさん

みさきさん、
この弟君も、幼稚園児ながら、いっぱしに碁を打てるのです。
なまじの小学生より、強いくらいです。
先行きが楽しみです。

そういえば、お姉ちゃんは泣くけれど、この弟君は泣かないなあ……
姉弟ながら、性格の違いというものが、あるのかもしれません。

2019/02/23 16:11:06

先生の目的は生徒を強くすることですから

パトラッシュさん

風華さん、
貴女にわからないものが、この鈍感な私に、わかるわけがありません。
腫物に触るように、おそるおそる扱うよりありません。
それでも、良いのです。
私は、彼女らが、強くなってくれさえすれば……

2019/02/23 16:06:34

懐かしい響き

みさきさん

「もう、やだぁっ」、懐かしい響きです。幼い日の下の子は4つ半上の兄に、何をやっても敵いません。それでも、何でも兄のやることにチャレンジして、結局のところ、「もう、やだぁっ」。その癖、次の日には、また、チャレンジしていたものでした。

先生に、温かく見守られながら、チャレンジを重ねて子供さん達が成長してゆかれますね。
お姉ちゃんのお伴の幼稚園君も、間もなく入門でしょうか。この弟君も、一生懸命、お姉ちゃんに追いつこうと「もう、やだぁっ」と言いながら頑張るかしら、などと想像しています。

2019/02/23 14:07:39

女の世界

風華さん

難しすぎる世界ですね。
それぞれが別世界ですし。
スポーツ界では試合を離れると仲良しも
ままあるようだけれど、女の私でもわかりません。

2019/02/23 10:39:31

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